96 最高の護衛騎士に明かすこと
秘密の抜け穴に入ったシャンテルは、薄暗い石造りの壁から突き出た燭台にマッチで火を灯す。自室の入り口に火を灯しておけば、帰ってきた時の目印にもなるからだ。そして、その火を自身が手に持っている燭台にも灯した。
「姫様、お気をつけて」
「えぇ。行ってくるわ」
侍女たちに送り出されて歩き始めたシャンテルの後にカールが続く。
「本当は一度、廊下に出て近道を通りたいところだけれど、今日は誰にも見つかりたくないから、このまま通路を進むわよ。少し遠回りになるけれど、ちゃんと付いてきてね」
カールは「はい」と短く返事をした。
今まで、部屋の前に護衛騎士が立っているのに、どうやって誰にも知られずに外出していたのか、カールは不思議だった。だが、この方法ならそれが可能だ。
「しかし、この通路を私に教えてしまっていいのですか? これは王族専用の抜け道ですよね?」
その言葉にシャンテルが歩きながら顔だけ後ろに向ける。
「先ほども言ったけれど、貴方は私の最高の護衛騎士だからいいのよ」
その一言にカールは胸が温かくなる。
どんな形であれシャンテルに認められ、信頼されることがカールは嬉しかった。
その後も狭い道を慎重に歩くと、やがて階段が現れて下に降りた。
降りる途中にも、他の階からの抜け道と思われる通路が現れるが、シャンテルはひたすら下を目指した。やがて一番下の階層に降り立つと、少し広い場所に出た。
そこは水路らしい。足元のすぐ側には水が流れていた。少々臭うが、シャンテルは構わず歩いていく。
暫く進むと、真っ暗だった進行方向に僅かな明かりが見えてきた。外が近いようだ。
「少し止まるわね」
そう言うと、シャンテルは蠟燭の火を消した。
辺りが真っ暗になって、一瞬何も見えなくなったが、少し時間が経つと目が慣れてきて周囲が見えるようになってくる。
燭台を通路の脇に置いて、シャンテルがカールを振り返った。
「この先を抜けると市街地よ」
その言葉の通り、少し歩けば水路のトンネルを抜けて外に出た。
そこから慣れた足取りのシャンテルについて行くと、とある大きな邸にたどり着いた。
庭は雑草が目立ち、壁もところどころ色が剥がれている。そんな光景にカールは困惑したが、見覚えがあった。
先ほど通ってきた道でここが誰の屋敷なのかが、分かってしまった。
そんな邸の玄関をシャンテルは迷わずにノックした。
中から少し年を召した使用人が姿を現し、シャンテルがフードを下ろす。
「夜遅くにごめんなさい。今日は話があって来たの」
そう答えたシャンテルの後ろにカールを見つけた使用人が驚いた顔をする。
「なっ、お連れの方がご一緒なのですか?」
「大丈夫よ。彼は信頼できる私の騎士だから」
使用人は少し迷ったようだが、「お入りください」と声を掛けた。
使用人に続いて、邸の中に足を踏み入れた二人は二階に上がり、使用人は目的の部屋にたどり着くと扉をノックした。
「レオ様、姉君がいらしています。本日はお連れ様もご一緒です」
その言葉に「えっ?」と驚くような声がして、少しすると「入ってもらって」と入室を許可する声がする。
「失礼致します」
カールは使用人とシャンテルの後に続いて、室内に足を踏み入れる。そしてその部屋の主を視界に捉えた瞬間、驚きで息が止まった。
「っ!!」
まだあどけない顔立ちの少年。
そんな彼は、シャンテルと同じ赤い瞳をしていた。
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