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第44話 兄弟の確執

 「お姉様、今回の任務の一条兄弟ってどんな人達なのですか?」

 目的地である富士山の中枢までの道、朔が口を開いた。

「そうね……お互いの思い違いでずっと喧嘩をしている二人よ」

「……思い違いですか?」

 小夜は頷き、二人のことを語り始めた。


「きっと、桜ちゃんも聞いたことあるくらいよね?」

「はい……お話はかねがね、お兄様から伺っております」

「彼らは、紅蓮参(さん)階級、一条雷(いちじょうらい)、紅蓮伍《ご》階級、一条風(いちじょうふう)。最強の矛と盾を持つ唯一無二の兄弟、紅蓮階に上がる前は仲良しだった」

「……だった? というのはどういう……?」

 美澄の突っ込みに深く頷いて、小夜は桜に問いかける。


「桜ちゃん、紅蓮階の階級って何の順だったか覚えてる?」

「ええと、実績、能力、任務数、貢献度と信頼性……後、経験も含めた総合値だったはず!!」

「流石の記憶力ね。そう、能力値や妖の討伐数だけじゃない。人を助けた記録も含まれる。そこがね……総合評価が少しだけ弟の一条雷の方が上だった」

 小夜は俯き、口調が強張る。

「任命式は散々だったわ。私と大地君、矢巾先生まで出向いて、喧嘩する2人を止めた。そして、火山様は言い渡したの……」

「……」

 固唾を飲んで見守る三人。


「当時、妖の治安が一番悪かった。ここ、富士山に永久配属とし、2人で守っていきなさいと。……何の皮肉か知らないけど、今じゃここが日本で一番安全な場所になってるというわけね」

 散々語った小夜は長いため息をこぼす。


「……弟よりも数字が下だったからって、あそこまで怒るかしらね普通。普通なら、笑って済ませられる程度の差なのに……何年もずっとよ。……でも、力は本物。どうにかして、2人を協力させなきゃ」

「……お姉様、私達頑張りますよ!!」

 健気に拳を握る三人を見て、小夜は微笑ましく笑った。

「そうね、頼りにしてるわ!」



 ーー時が経ち、富士山の中枢とも言える場所に辿り着くと、休憩所があった。

 山の中だというのに人で賑わいを見せている。


「おぉい! 勘太(かんた)、走るな! 転んだらどうする!」

 緑髪の屈強な身体の青年が子供達の中心になって、騒ぎながら遊んでいる。その様子に小夜は、ほっこりした表情で微笑む。

「……ん? え、あ……え!? 小夜さんじゃないですか! おーい!」

 子供達の輪から強引に抜け出し、青年は嬉しそうに小夜へ駆け寄った。


「雷(らい)君、久しぶりね。元気そうでホッとしたわ」

「ええ、元気ですよ!! 永久任務も全うしてます。小夜さんは、どうしてこちらへ?」

 雷は小夜以外の面子を見て、キョトンと首を傾げる。

「私達も任務で来たのよ。雷君、少し時間ある?」

「はい! 大丈夫です、ちょっと待っててください!」

 雷は子供達の輪に戻り、事情を説明して、戻ってきた。

「おねえさん、だれ? わるいひと?」

 雷の後ろについてきていたのか、男の子が小夜を指差して言う。

「こら、勘太!! 人に指差さないよ! お姉さんは、悪い人じゃない。……凄く良い人だよ」

「ふーん、雷! ばいばーい!」

 子供達は手を振って、下山して行った。


 案内された休憩所で、其々の自己紹介を終えると、小夜は雷へ問いかける。

「雷君、風(ふう)とはどうなの?」

「……小夜さん、久々に会えたんですからあんな奴の話やめましょうよ!! それよりも何の任務で来たんです?」

 小夜は出されたお茶を少し飲み、短い溜息を吐いて言った。

「単刀直入に言うわ。長門弥彦からの命よ、紅蓮参・一条雷、紅蓮伍・一条風は永久任務を終え、炎命士協会に帰還せよ。私達はーー」

「ーー連れ戻しに来たと言うことですね。それなら、俺はいつでも覚悟は出来てました。でも、あいつはいりません!!」

 キッパリと言い切る物言いに空気が冷める。

「雷君……」

「あいつは、もう炎命士じゃない。人を助ける心を忘れた、ただの化け物です」


 雷は寂しげな表情で呟いた。

「もう昔には戻れない。小夜さん、俺はいつでも帰還出来ます。ご命令を……」

 小夜は何も告げずに休憩所を出た。

 桜と朔が後を追う。


「小夜さん……大丈夫ですか?」

「うん。ごめん、桜ちゃん、雷君を任せてもいい?」

 辛そうな表情の小夜の申し出に、桜は快く了承した。

「朔、風の所に行くわ。一緒に来てくれる?」

「ええ、お姉様。何処へでもお供します!!」


 桜は休憩所へ戻り、美澄と朋絵に状況を端的に説明した。2人は承諾し、深く頷く。

「はぁ〜〜〜……」

「ええと、雷さん?」

 ポカーンと顔を赤ながら、惚けている雷に桜は恐る恐る声を掛ける。


「……ハッ! すみません! 久々に小夜さんに会えて、心が、脳が溶けそうで……えへへ」

 頭の中で小夜を思い浮かべ、ニヤニヤしている。

「雷さん、小夜さんのこと好きなんですか?」

「え!?……い、いや! そんな、好きなんて……ええと……」

 "凄く分かりやすい反応"ーー全員思った。


「そうです。昔から小夜さんが好きで、でも俺なんかじゃ、釣り合わなくて……ずっと片想いです」

「…‥昔から? というのは?」

 桜は雷の含みのある言い方に疑問符を浮かべる。

「ああ、俺とあい……兄と、小夜さんは同期なんです。厳密には焔(ほむら)階級からの同期ってか……ずっと仲良くて、三人で切磋琢磨して、いつか三人で紅蓮階になろうって……」

 ーーその夢は叶えているはずなのに、やるせない思いと空気感が雷と小夜の間にあったことが三人の頭によぎった。

「その夢は叶ったんですけどね。でも、俺達二人がこんなんだから、小夜さんも素直に喜べないだろうし、お祝いもしてません……」

 雷は苦しそうに笑った。


「お兄さんと仲直りする気はあるの?」

「……今の所はないです。すみません」

 雷は深々と頭を下げた。その背中は少し頼りなく、屈強なはずなのに弱々しく見えた。

◾️紅蓮階の序列について

新人時代からの実績、能力、任務数、貢献度と信頼、経験も含めた総合値で序列が決まる。


 もし、少しでも良いと思って頂けましたら、 画面下部の《☆☆☆☆☆》で評価、感想、レビュー等、お待ちしております。 お忙しい中、読みに来てくださってありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
序列そうやって決まってたんですね!?なるほど!? それはそれは、なんと貴重な情報でしょうか……なるほどー。 登場を楽しみにしていた兄弟も本格的に出てきて続きが気になります。この確執はどう解決していくん…
なるほど……任務が見えてきましたが、また難しそうな問題が……。一度こじれてしまうと兄弟であっても難しいものですね。 けど小夜さんたちがきっとどうにかしてくれるはず……! 続きを待ちます!
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