第43話 面会の刻
大地と長門の二人は面会まで待合室で待機していた。
「まさか、申請した瞬間に護送を手伝わされるとはね」
「……人使いの荒い連中だな。まあいい、猶予が出来た分、出来ることは増えた」
大地の物言いに長門は深く頷く。
「大地、大丈夫か?」
「……ああ、大丈夫だ」
妖異裁定が始まる前の時間、大地はどこか上の空だったが、今は覚悟を決めている様子だった。
「ここで詳しい内容は話せないが、一条兄弟を起こそうと思う。俺と大地、血盟が抜けるのは紅蓮階としても痛手だからね」
「……あの二人か。確かに戦力にはなるがーー」
大地の言葉を遮るように扉が開き、妖異裁定院の男が現れた。
中へ入ると、部屋の半分を幾重にも張り巡らされた結界と術式が組み込まれ、両手足に鎖付きの枷が付いた聖火が地べたに腰を下ろしていた。
「面会は10分です、時間厳守でお願いします。それでは」
男は部屋から出ていった。
「長門さん、だい兄……本当にごめんなさい。こんなことになってしまって……」
最初に口を開いたのは、聖火だった。
地面に頭をつけ、真摯に土下座し、謝罪の言葉を続ける。
「聖火、謝らないでーー」
「ーー聖火ァ! お前ってやつは……俺の言いつけを全然守らねえ!……うぐっ……」
長門の言葉を遮って、大地は聖火を怒鳴りつけた。
言葉の中で込み上げてきた感情がいつの間にか、大地の瞳から大きな雫をこぼした。
「……お前が無事で何よりだ……!」
「……ッ!」
思わず目を見開き、聖火は言葉に詰まる。
自分が暴走していなければ、力を御せていれば、羅刹に負けなければ、水戸を早く止めていれば……様々な後悔と雑念が頭を支配する。
「大地、気持ちは分かるが……時間がない。少しどいてくれないか」
「……ああ、すまねえ」
着物の袖で涙を拭きながら、長門と交代した。
「聖火、ひとつだけお願いしたい事があるんだ」
「……はい」
長門は優しく微笑みながら言った。
「俺達は外部からその力について調べてみる。聖火はその力を制御出来るよう、頑張ってみて欲しいんだ。結界の中で力の解放は難しい思うが、出来ることをやって欲しい」
「……分かりました。ありがとうございます」
深々と頭を下げ、聖火は自分の中の溢れ返る"闇"と向き合う覚悟をした。
今まで散々背けてきた、その"闇"と。
「ーーそれと、紅蓮階のことは気にしなくていい。紅蓮玖の席はいつでも空いているから、聖火は自分のやるべきことに集中してくれ」
「炎道のことも気にすんな。純恋も心配してくれてるが、適当に言っておく。近い内に家族で面会に来るから、それまでは……まあ、聖火なら大丈夫だろ」
長門と大地の二人は穏やかな表情で部屋を出ていった。残された聖火は自分の中の"闇"と戦うべく、目を瞑った。
「弥彦、あの兄弟に協力を仰ぐたって……結構難しい思うぞ。少なくとも、俺には無理だった」
過去に起きた出来事を思い出しながら呟く大地に、長門は微笑む。
「大丈夫だ、もう手配してある。彼女達は編成するか迷ったが、良い結果を残してくれるだろう。編成自体も特例だけどね……」
「……まさか?」
「そのまさかだよ。深刻な人手不足だ……やむを得ない。何があっても俺が全責任を負う」
長門は真剣な表情で言い、その場を後にした。
ーー数日後。
日本で最も高い山ーー富士山の麓で厚着した服装の三人がとある人物を待っていた。
「朋絵、もう身体は大丈夫なの?」
「……うん。暫く休んだし、大丈夫」
「朔も大丈夫? 前の戦闘で朋絵に蹴られてたでしょ! 私はだいぶ良くなってきたけど!」
美澄の含みのある言い方に膨れっ面の朋絵。
「美澄、いじわる! きらい!」
「嘘よ! そんな直ぐに膨れない!」
三人が"いつも通り"を繰り広げていると、地面を踏み歩く音が二人分聞こえてくる。
「仲が良いのは良いことね、学生の本分よ。ねえ、桜ちゃん?」
「は、はい!」
朋絵、美澄、朔の三人は歩いてきた二人に視線を向け、口をポカーンと開けた。
「ええええええええええっ!? 紅蓮階が二人!?」
「あれ、お兄様から説明無かったのですか?」
美澄の驚愕した叫び声に長門桜は頭に疑問符を浮かべる。
「いえ、任務指示には上階級2名の合流と書かれておりましたので、てっきり業火階かと……そもそも、私達、本当に出動していいのですか?」
「……出動については、お兄様が全責任を取ると仰ってましたから大丈夫ですよ!」
ホッと胸を撫で下ろす三人を見つめ、桜は続ける。
「……なるほど、それは驚かれるのも無理はありませんね。後でお兄様をぶちのめしておきます」
可愛い顔して辛辣な毒を吐く桜に目を丸くさせていると、桜はハッとして続ける。
「あ……申し遅れました。私、紅蓮捌階級の長門桜です。よろしくお願いします」
桃色の着物を羽織ったその姿、背丈的には美澄や朋絵、朔と何ら変わりはなかった。年齢も近く見える。
「同じく紅蓮陸階級の白秋小夜よ。朔はともかく、二人はよろしくね」
錚々たる面子に朋絵と美澄は固まりながら、声を上げる。
「「よ、よろしくお願いします!!」」
「ふふふ、そんなに固くならなくても良いのよ」
二人の初々しい様子に微笑みながら、小夜は高々と天を突き抜ける山ーー富士山を見据えた。
「それじゃあ、行きましょう。今回の任務は少しばかりハードになると思うけれど、大丈夫。紅蓮階がついてるから!」
小夜の言葉に安堵しながら、五人は新たなる任務へと赴くーー。
ーー富士山の麓近くの村。
古びた木造建築の家からは鉄臭い匂いがしていた。
「……ふむ、時は満ちたか。全てはあの……」
両手を真っ赤な鮮血で汚し、青い猪面の男は呟く。
その双眸は富士山の頂上を捉えていた。
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