第42話 妖異裁定
張り詰める空気の中、妖異裁定院の男は話を続ける。
「ーー陰陽師側、告訴理由を述べてください」
「はい」
短い返事をし、立ち上がったのはーー水無瀬涼であった。涼は手に持っていた資料を、一枚の資料のところで手を止め、口を開く。
「順を追って説明させてください。我々、陰陽師は炎命士の最高位紅蓮階である大和聖火が妖の力を利用しているとの情報を入手し、今回の告訴を決意致しました」
裁定院と会話する形で話が進む。
「前々から気づいていたと?」
「はい。ですが、確証が得られず…… 今回のような異例の潜入捜査を、陰陽師の名家・神堂家の御子息である神堂龍馬様からの申し出により、実施する運びとなりました」
龍馬は、名前を呼ばれて思わず俯いた。
先程まで戦意喪失していた聖火からの視線を感じたからだ。
ーー神堂龍馬? 龍馬の名前は御堂じゃ……?
そこから嘘なのか!? 俺達が過ごしてきた時間も!?
聖火の感情が揺れ動き、必死に視線で訴えても、龍馬は見ようとしなかった。
「昨日、妖化した大和聖火を封印する炎道大地の現場に遭遇し、確保となりました」
「炎道大地、この現場での事実に相違はないですか?」
鋭い眼光で裁定院と涼を睨みつけ、大地は答える。
「ああ、相違ない」
裁定院はこくりと頷き、話が続く。
「我々陰陽師は、大和聖火の処刑と、妖討伐に関する全ての指揮を陰陽師が取り、炎命士は補助として今後の活動を担っていただくことを所望致します」
ーー会場に激震が走る一言を涼はサラッと言い、深々と頭を下げて着席した。
「それでは、炎命士側、説明をお願いします」
「はい」
長門が立ち上がり、涼しげな表情で口を開く。
「大和聖火についてですが、前回暴走時に妖異裁定院に"あの力"の件はお伝えし、承諾を得ております。それが妖の力と結びつけるのは少々手荒な真似かと……」
「発言を宜しいでしょうか?」
裁定院が承諾すると、涼はすぐに立ち上がった。
「前回暴走されているのはこちらも知っております。それについての説明もございました。ただ、今回のこの姿……人類の脅威となる可能性の方が高いのでは?」
涼は、手元の資料にある聖火が妖と化した状態の写真を指差した。
「ええ。ですが、前回も今回も全て我々紅蓮階が対処し、封印している。この事実は変わりません。我々も聖火の"あの力"の正体については何も分かっておりませんが、封印することで止める努力はしております」
「味方である炎道大地を襲ったのでしょう? 更に力が増して、次は止められなかったら? そんな爆弾のようなモノを抱えてまで戦わないといけない理由とはなんでしょうか?」
顔の血管が浮き出て、怒り心頭の涼を前に長門は冷静に受け答えを進める。
「彼は18歳で紅蓮階まで上り詰めた実力者にして、今までの貢献度もあります。彼に救われた人間は何人も居る、その実績こそが彼が人間たる証明になるのではないでしょうか」
有無を言わせぬ回答に、涼は冷や汗を流し、腰を下ろす。
「陰陽師側、反論はなさそうなので話を進めます。今回の妖異裁定は大和聖火の処分について。炎命士側は今後も紅蓮階の名を背負い、戦って欲しいと願っているのでしょうか?」
「はい、間違いありません」
長門は軽く微笑み、腰を下ろした。
「陰陽師側は処刑を望んでいるのでしょうか?」
「……ああ、当たり前だろう」
声を上げたのは涼ではなく、龍馬の兄ーー龍剣であった。
「いくら実績があろうと妖は妖。その力が何なのか分かってない以上、制御出来ずに暴走するような爆弾を前線に置いておくことは出来ん。ならば、封印か……殺すかのどちらかしかない」
間髪入れずに少しの間を置いて、話を続ける。
「それに、今回の騒動は紅蓮階が引き起こしたとか……自分達のお仲間の管理すら出来てないような組織に全権を任せるのは難しい」
龍剣は雄弁な口調で淡々と語り、気が済んだのか、腰を下ろして腕を組んだ。
「裁定院殿、発言を宜しいでしょうか?」
裁定院が承諾し、長門は立ち上がる。
「お言葉ですが、組織的な話をすれば、あなた方も同じでしょう? 論点を逸らさないで頂きたい。10年前の……ゴホン、今の発言を撤回することを申請致します」
"10年前"という言葉が出た瞬間に会場のざわつきが増す。
「今の議論に今回の大和聖火の一件と無関係な会話が出たので、今の発言を撤回とします。今後は無関係な会話は慎むように!!」
場は一刀両断されたが、長門と龍剣は睨み合っていた。ピリピリとした空気感が周囲を張り詰める。
「ここからは我々、妖異裁定院の決定を述べる」
男は頭に手を当て、目を瞑り、少し頷いた素振りを見せて口を開いた。
「ーー大和聖火はその力の実体が分かるまで、妖異裁定院が預かり、封印処置とする。2週待って、正体が分からなければ処刑。尚、陰陽師側が告訴を取り下げればこの話は無かったこととなるーー以上!!」
大地は不服そうな表情を浮かべているが、長門はうんうんと頷き、挙手して発言権を求める。
「長門弥彦」
「ありがとうございます。大変恐縮ですが、本人との面会等はどうなるのでしょうか?」
「交友関係を持っていると確認出来る者のみ、可とします。手続きについては後ほど……」
長門は頭を下げた。陰陽師側は妖異裁定院の最後の発言を鼻で笑っていた。
「大和聖火の妖異裁定をーー閉廷する!!」
両者いがみ合いながら、妖異裁定は終了した。
龍剣は帰り様に嫌味を口走って帰っていった。
「……こちらが告訴を取り下げることはない。せいぜい、残りの猶予を楽しむといい」
その嫌味を感情のこもっていない笑顔で返し、長門と大地は面会の手続きを進めた。




