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第29話 疑念の炎

 寮部屋から教室に向かう途中、聖火は校舎の窓から何かを見つけたのか、ふと足を止めた。

「つぐ兄、今うっすら見えたんだけど、多分煉夜は中庭に居ると思う!!」

 校舎の窓から見えたのは、中庭で空を見上げる煉夜の姿であった。


「分かった……急ぐぞ!」

 現在は授業中でそんな場所にいるはずはないが、聖火は自分の目を疑いはしなかった。2人は行き先を変え、煉夜の元へと向かう。




 雲間から差し込む陽光が中庭を照らし、鮮やかな緑色の木々や芝生がより一層綺麗に映る。

 暖かい春風が、煉夜の頬を掠め、彼は穏やかな表情で空を見つめていた。



「……煉夜、一連の事件は君のせいなの?」

「なんや、そんなに怒りの感情をむき出しにして……何のことや?」

 白々しく笑う煉夜に、痺れを切らした水戸が声を荒げる。

「お前が緋色の目の生徒を増やしてるんだろ! 何が目的なのか教えろ!」

「……ははは、そうや。やから、何やねん。あんたら2人で何が出来んねん」

 煉夜は黒い笑みを浮かべ、懐から取り出した赤い狐面を被った。


「紅蓮階が2人やからって、何も怖ないで? 俺には秘策があるんや!」

 煉夜は指をパチンっと鳴らした。

 するとーー


 校舎の至る所から生徒達の悲鳴が聞こえ、水戸と聖火は嫌な予感を察した。

「まさか……」

「そのまさかや! 今の合図で俺が仕込んだ数十人の教員を含めた生徒達が暴走。アンタら、紅蓮階やったらこんな所で油売っとらんと助けに行ったほうがええで!はははは!!」

 本性を表した煉夜の態度に憤りを感じ、聖火は強く拳を握る。


「聖火、学園の暴走してる奴等は俺が止める。ここは任せても良い?」

「うん、大丈夫。友達を正気に戻してみせるよ」

 聖火の返答に安堵し、水戸はその場を離れた。


「煉夜、何でこんなことを引き起こしたのか、教えてもらう!」

「そんなもん、教えるわけいないやろ! アホやな!」

 煉夜は懐から筆を取り出し、命の炎を燃やして、空中に書き殴った。


「炎命術……広葉花簪(ひろはのはなかんざし)

 桃色の花弁が細い花が咲き乱れ、顕現。煉夜の手には、小刀が握られる。


「炎命術……白熾(はくし)

 胸に手を当て、命の炎を体に巡らせる。白く薄い光が聖火の身体を纏った。


 最初に動いたのは聖火だった。

 地面を蹴って、一気に加速。拳を強く握り締め、煉夜の懐へと潜り込まんと間合いを詰める。

「そんな簡単に間合いに入らせるわけないやろ!」

 煉夜は小刀を投擲した。鋭利な小刀は陽光に照らされ、白く銀色の光を帯びながら、真っ直ぐに聖火の眉間へと襲いかかる。


「……ッ!」

 紙一重で重心をずらして避け切るも、聖火の視界にはもう一本の小刀が現れた。

「ぐっ……!」

 こちらも身をそり返らせ、見事に避け切るが、その瞬間にはもうひとつの小刀が眉間へと迫り来る。


「顕現した小刀は一本のはず……何故?」

 そんな疑念を頭に浮かべている暇もなく、頭を伏せ、無数に放たれる小刀を可憐なステップで避け続けた。

「逃げてばっかで紅蓮階が務まるんやったら、俺でもなれそうやな!」

「……煉夜」

 ーークラスメイトに煙たがられていた俺を助けてくれた勇敢な煉夜、中庭で話してくれた過去の話、どれも嘘だったのか。あの時の言葉にたったひとつも嘘はなかったはず。

 それに、授業で憧れの炎命士に血盟の名前を出した時、俺が血盟だと知らなかったはずだ。


 聖火には、狐面を被る煉夜に違和感があった。

 何かが裏で糸を引いているような気がした。

「煉夜、ごめん。少しだけ本気を出すよ」

「なんや、今までは本気やなかったんか?」

 煉夜の問いかけを答えることなく、指先に灯した命の炎で虚空に"迅"の文字を書き記す。


「炎命術……字装(じそう)(じん)


 炎で記した文字が消え、聖火の身体が僅かに白く光った気がした。


「何が変わってん! 脅しだけやったら、何も怖ないで!」

 煉夜は小刀を無数に投擲し、聖火の逃げ場を全て抑えた上で死角からの攻撃も怠らずに放ってみせる。

 風の傾きや空気の切り裂き具合を計算し、投げ方や回転でそれら全てを実現した。


「……想像以上の実力だね。でも、この程度の速度なら、何も怖くない!」

 聖火は強く地面を蹴り、空中に飛び上がった。小刀が地面へ落ちるまでの僅かな時間。その軌道を見切った聖火は、空中で柄を掴み取り、煉夜へ投げ返した。


「どんな技やねん! 人間離れしすぎやろ!!」

 不服な言葉を吐き捨てながら、聖火からの奇襲を全て避ける。ーー煉夜は悔いる事となる。自分の回避の為に聖火から一瞬だけ視線を外してしまったことに。

 聖火は、空気抵抗を抑える為に空中で一回転し、地面に着地。

 すぐさま、両足で地面を蹴った。

 ーーまさしく、その姿は疾風迅雷の如く。

 凄まじい速度で煉夜の顔面へ渾身の拳を放った。


「があッッ……!!」

 防ぐ間もなく、赤い狐面が吹き飛ぶ。煉夜は数メートル先まで吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられた。


「煉夜、観念しろよ。何でこんな事を企てたんだ? 答えてくれ!」

「……ぷっ、ははははは! そんなもん、この世の中から妖を一匹残らず殺す為や!」

 両手をつき、赤くなった頬を撫でながら立ち上がる。近くに吹き飛ばされた狐面を拾い、緋色に染まった瞳がギョロリと聖火の方を向く。

「……煉夜!? その目……」

「なんや、俺の顔に何か付いとったんか? 第二ラウンドと行こうやないか……」

 煉夜はズボンのポケットから真っ赤な丸薬を取り出し、迷いなく飲み込んだ。


「あははははははは!……はははははは!」

 身体から冷や汗が噴き出るような悍ましい炎が煉夜を包む。

 ーーあの時と同じ炎。良人が豹変した時と同じ、狂気的で禍々しい炎!


 聖火は拳を強く握り、目の前で豹変する煉夜をただただ見つめ続けた。






◾️字装(じそう)

聖火の炎命術。命の炎で空中に字を書き殴ると、言葉の力を顕現し、身に纏い、力を得る。しかし、纏える文字数に制限があり、増やせば増やすほど、燃やす炎の量は多くなり、身体への負担が大きくなる。


◾️字装・(じん)

反射速度、反応速度、身体的速度が上昇する。


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