[虚偽表示]現場編 「正しい方が勝つとは限らない」と嗤う男に、法律の包囲網を敷く
嘘には、単独犯と共犯があります。
前者はまだ、可愛げがあります――とは言いませんが、少なくとも一人で勝手に転ぶぶん、被害の線は読みやすい。柏木トメさんの「冗談で土地を売る」みたいに、言った本人が「いや本気じゃないです」と青ざめるタイプです。
でも後者。つまり、相手と手を組んで嘘をつくタイプは、ややこしい。
ややこしい上に、たいてい本人たちはこう言います。
――名義だけだから。
――形式だけだから。
――本当の売買じゃないから大丈夫。
大丈夫なわけがありません。
民法は、その手の「いや実質は違うんで」を、思ったほど甘く見てくれないのです。
そして昭和六十三年のこの町にも、そういう「名義だけ」の軽さで人生を傾けかけた人がいました。
月曜の朝、大槻不動産には、どんよりした空気が流れていました。
いえ、事務所そのものはいつも通りです。古い扇風機が首を振り、所長の机には新聞が広がり、真壁さんは朝から電話口で「だからその坪単価は夢見すぎです」と辛辣な現実を叩きつけています。
問題は、応接のソファに座る二人の男でした。
一人は、痩せた中年男性。四十代後半くらい。くたびれた背広に、必要以上に揉み手が似合いそうな顔。額には汗。視線は落ち着かず、湯飲みを持つ手も少し震えている。
もう一人は、逆に妙な余裕がありました。年は同じくらい。髪はきっちり撫でつけられ、スーツも仕立てがいい。けれど、口元だけが軽い。人当たりのよさそうな笑みが、むしろ胡散臭さを増幅させていました。
痩せた方が沢村さん。
余裕のある方が新堂さん。
そして、この二人、明らかに空気が変です。
私は来客用の湯飲みを置きながら、そっと観察しました。沢村さんは何度も新堂さんを見ている。助けを求めるように。新堂さんはそのたび、にこやかに頷く。大丈夫ですよ、みたいな顔で。
……この関係、だいぶ危ない。
所長が低い声で言いました。
「で、もう一度整理しましょう。沢村さんの土地は、現在、登記上は新堂さん名義になっている」
「え、ええ……」
「だが実際には、売るつもりはなかった」
「はい! そうなんです、所長さん、私は売る気なんて……!」
「落ち着いてください」
所長が手で制すと、沢村さんはびくっと口をつぐみました。代わりに新堂さんが、実に穏やかに口を開きます。
「誤解があるようですが、私は沢村さんを助けたかっただけなんですよ」
来ました。
助けたかっただけの人、たいてい助けきってません。
「沢村さん、少し資金繰りが苦しかったでしょう? このままでは差押えの話も出かねない。それで、とりあえず名義だけ私に移しておけば、落ち着くまで守れるんじゃないかと」
私は内心で机を叩きたくなりました。
はい、出ました。仮装譲渡の定番文句です。
沢村さんがうつむいたまま、かすれた声で言います。
「借金が……あって……。でも、工場を畳めば返せる見込みもあったんです。ただ、急に取引先に手形を切られて、その、差押えの話が出て」
「そこで新堂さんが、名義だけ移しとけって?」
真壁さんが露骨に眉をひそめる。
「……はい」
「登記まで?」
「はい……」
私は湯飲みの脇に置かれた書類を見ました。土地は沢村さん名義だった、町外れの資材置き場兼工場用地。そこそこの広さがある。昭和末期の地価熱で、以前よりも値がついている。だからこそ、債権者が目をつけたのでしょう。
そして沢村さんは、それを守りたくて、新堂さんと組んだ。
つまりこれは、ほぼ教科書どおりの――
「通謀虚偽表示ですね」
ぽろっと口に出た。
応接セットの四人が、一斉にこちらを見た。
……しまった。最近、前世の宅建受験モードが漏れやすい。
でもまあ、もう遅いので続けます。
「沢村さんと新堂さんが、実際には売るつもりも買うつもりもないのに、売買したように装って登記まで移した。そういうことですよね」
沢村さんは、おどおどしながら頷きました。新堂さんの方は、薄く笑ったままです。
「お嬢さん、難しい言葉を知ってるね」
「勉強中なので」
「ははぁ」
その“勉強中の小娘が何を言うのかな”みたいな目。
嫌いじゃないですよ。
後でひっくり返すと気持ちいいので。
所長が腕を組みました。
「それで、新堂さん。今はどういう話になっているんです?」
「どうもこうも、登記は私名義です。沢村さんもご納得の上で署名捺印された。私はこの土地を有効に取得している。ですから、ちょうど買い手もつきそうですし、売却して整理しましょうと申し上げているんです」
「はあ!?」
沢村さんが立ち上がりかけました。
「そんな話じゃなかった! あんたは、落ち着いたら戻せるって……!」
「でも戻す約束を書面にしましたか?」
新堂さんは笑顔のまま、ぴしゃりと言いました。
「してませんよね」
――うわ。最悪。
所長も真壁さんも無言になりました。言ってることが強いのではありません。面倒くさい方の“理屈”を知っている人間の顔をしているからです。
私は心の中で、教科書の見出しをめくっていました。
・虚偽表示は当事者間では無効
・でも善意の第三者は保護
・しかも過失があってもいい
・登記がなくても保護されうる
ここまでは乾いた知識。でも今、目の前では、工場を守りたい男と、それに乗じて土地を食おうとしている男がいる。
知識は、人の顔をした時の方がよく刺さります。
「新堂さん」
私が呼ぶと、新堂さんは少し面白そうに首を傾げました。
「はい?」
「沢村さんとの間のその売買、当事者間では無効です」
応接の空気が張りました。
新堂さんの笑みが、ほんの少しだけ薄くなる。
「へえ。どうしてそう思うのかな」
「売買したように見せかけただけだからです。相手と通じてした虚偽の意思表示は無効。これはかなり基本です」
「だが登記は私名義だ」
「登記があることと、当事者間で有効かどうかは別です」
真壁さんが、隣で少しだけ口の端を上げました。ありがとうございます。今ので少し勢いがつきました。
「沢村さんが差押えを免れたくて、新堂さんがそれに協力した。つまり、お二人は最初から“本当に売るつもりも買うつもりもない”のに、そういう形を作った。なら、沢村さんと新堂さんの間では、その契約は無効です」
沢村さんが、救いを見つけた子どもみたいな目でこちらを見ました。
「じゃ、じゃあ土地は……」
「ただし」
私はすぐ続けました。
「そこで終わらないのが、いちばん怖いところです」
新堂さんの目が、すっと細くなる。
「……続けて」
「新堂さんがその土地を、事情を知らない第三者に売ると、その第三者は保護される可能性が高いです」
沢村さんの顔が真っ白になりました。
「そんな……!」
「ええ。だから今が止めどきです」
所長が低くうなりました。
「つまり、新堂さんが次に動く前に押さえろ、と」
「はい」
私は頷きました。
「仮装で名義を移した当事者同士なら、沢村さんは無効を主張できます。でも、その後に出てくる善意の第三者には、その無効を主張できない。だから“名義だけだから大丈夫”が一番大丈夫じゃないんです」
新堂さんが、そこで初めて露骨に不機嫌な顔をしました。
「お嬢さん。さっきから勝手なことを言ってるが、第三者、第三者って、誰の話かな」
「まだ売ってないんですか?」
「……さあ」
その曖昧な笑い方で、私は確信しました。
もう動いています。
真壁さんも同じことを感じたらしく、いきなり机の上のメモを引き寄せました。
「所長、新堂のとこ、最近どことつるんでた?」
「松岡建設。あとは駅前再開発に色気出してる連中だな」
「栞」
「はい」
「お前の言う“第三者”って、善意なら守られるんだな」
「はい。善意ならです。無過失まではいりません」
「過失あっても?」
「はい」
新堂さんが、ちっ、と小さく舌打ちしました。
当たりです。
つまりこの人は、相手先が少々うさんくさくても、「知らなかったと言い張れればいける」と踏んでいる。すごく嫌な現実感がありますね、昭和の不動産トラブル。
沢村さんが震える声で言いました。
「私、どうしたら……」
私は一拍考えました。法律の正解と、現場の正解は、少し違う。条文だけなら「当事者間では無効です」で終わる。でも現場では、その次に何をするかがすべてです。
「まず、売るつもりがなかったこと、名義だけのつもりだったことを、今この場で明確にします」
「い、今?」
「はい。書面に残しましょう」
私は事務机の方へ向き直りました。便箋を引き出し、私は走り書きで文面を作り始めました。
『 確認書
沢村一樹は、新堂冬樹への本件土地の移転について、真実の売買意思に基づくものではなく、差押え等を免れる目的で仮装したものであることを確認する―― 』
真壁さんがのぞき込みます。
「正面から書くなあ」
「回りくどくすると逃げられます」
「好きだねえ、そういうの」
「褒め言葉として受け取ります」
新堂さんが鼻で笑いました。
「そんな紙、私が書くわけないでしょう」
「でしょうね」
私は即答しました。
「でも、拒否した事実も含めて残せます」
「……」
「それに、もう一つ」
私は顔を上げました。
「もしすでに売却交渉中の相手がいるなら、その相手にも事情を知らせる必要があります」
「やめろ」
新堂さんが初めて、笑みを消して言いました。
「それは業務妨害だ」
「いいえ」
私はペンを置いて、まっすぐ見返しました。
「善意の第三者をこれ以上作らないための連絡です」
事務所の空気が、ぴんと張る。
私は内心、少しだけ喉が渇いていました。強く言っているけれど、怖くないわけじゃない。相手は場慣れした大人の男で、私は十八の見習いです。けれど、怖いから黙ると、たぶんこういう人たちは黙って誰かの土地を食べます。
だったら、言うしかない。
「新堂さん。あなたがもし次に売る相手へ、“この土地は沢村さんが本気で売ったものだ”という前提で話しているなら、それ自体がかなり危ういです」
「危うい?」
「ええ。少なくとも、事情を知った相手は善意ではいられません」
所長がそこで立ち上がりました。こういう時の所長は、静かなのに圧があります。
「新堂さん。こちらとしては、今この場で本件土地の処分をしない旨、一筆ほしい」
「断ります」
「でしょうな」
所長は頷いただけでした。
「ならこちらも動きます。沢村さん、債権者の状況と登記書類を全部出してください。すぐに整理する。新堂さんが勝手に売りに回る前に、可能な手は打つ」
「ま、待ってください所長!」
沢村さんが半泣きで所長に縋ります。
「工場がなくなったら、従業員も……」
「だからその前に動くんです」
所長の声は厳しかったけれど、切り捨てる感じではありませんでした。現実を動かす人の声です。
新堂さんは、ついに立ち上がりました。
「まあ、今日はここまでにしましょう。沢村さん、あなたもずいぶん妙な知恵を吹き込まれたようだ」
「妙じゃありません」
私が言うと、新堂さんは面倒そうにこちらを見ました。
「法律です」
「法律ねえ。現実はそんな綺麗じゃないよ、お嬢さん」
「知ってます」
私は笑わずに返しました。
「だから、せめて嘘の線くらいははっきり引くんです」
新堂さんはふっと肩をすくめ、そのまま出ていきました。ガラス戸の閉まる音が、やけに大きく響きました。
そして残された沢村さんは、本当に崩れ落ちそうな顔をしていました。
「……私、なんてことを」
「やったこと自体は、褒められません」
私はきっぱり言いました。
ここで「大変でしたね」「仕方なかったですよ」とだけ言うと、学習にならない。いや学習って言い方もあれですが、少なくとも同じ穴に落ちる人は減らしたい。
「差押えを怖がる気持ちは分かります。でも、“嘘の名義で守る”は、守りじゃなくて延命です。しかも他人の手を借りた時点で、裏切りの余地までセットになります」
沢村さんは、膝の上で手を握りしめました。
「……はい」
「ただ、今ならまだ間に合う可能性があります」
所長が頷きます。
「登記簿、借入先一覧、手形関係、全部洗う。真壁、お前は松岡建設に当たれ。新堂が話を持ち込んでるなら、先に釘を刺す」
「了解」
「栞、お前は本件の時系列をまとめろ。沢村さんから聞き取りだ」
「はい」
私はすぐノートを開きました。
「最初に話が出たのは、いつですか」
「先月の……十七日です」
「場所は」
「スナックで……」
「出た、昭和の不動産トラブル発生源トップ3」
「何か言ったか」
「いいえ、なんでも」
真壁さんに睨まれたので、私は真面目な顔に戻ります。
「その時、新堂さんは何と言いました?」
「『一時しのぎだ』『名義だけだ』『ほとぼりが冷めたら戻せる』と……」
「戻す条件の話は?」
「口約束だけで……」
私はせっせと書きつけました。
こういう時、記録は強い。言った言わないは、時間が経つほど都合よく変形します。だから、今のうちに固定する。
宅建の勉強をしていた頃は、条文の暗記ばかりで見落としがちだったけれど、実務っぽい場面を想像すると分かる。法律は、記録とセットで初めて牙になる。
昼過ぎには、沢村さんの話から、おおよその全体像が見えてきました。
・沢村さんは資金繰り悪化で差押えを恐れていた
・新堂さんが「名義だけ移せば守れる」と持ちかけた
・売買代金は実際には払われていない
・なのに売買契約書と登記だけは整えた
・最近になって新堂さんが「売って整理した方がいい」と言い出した
はい、完全に教科書案件です。
でも教科書と違って、ここには工場で働く人の給料も、沢村さんの見栄も、切羽詰まった恐怖も混ざっている。
そこが厄介で、だから面白いのかもしれません。いや面白がってはいけませんが、物語としては非常に強い。
夕方前、真壁さんが戻ってきました。
「黒だ」
「松岡建設ですか」
「ああ。新堂から“権利関係すっきりしてる土地がある”って話が行ってた。まだ契約前だが、だいぶ乗り気だった」
所長が舌打ちします。
「で、事情は伝えたか」
「半分な。こっちも断定しすぎるとまずいが、“仮装の疑いがある、争いになる可能性が高い”とは言った」
「反応は?」
「顔色変わった。さすがに揉めた土地を今の地価で掴みたくはないらしい」
私はほっと息をつきました。
よかった。少なくとも、善意の第三者が完成する前に警告が届きました。
「つまり、松岡建設はもう善意じゃいられませんね」
私が言うと、真壁さんが片眉を上げる。
「お前、その言い方ほんと好きだな」
「だって論点なので」
「論点論点うるさいな」
「宅建受験生だったので」
「まだ意味が分からん」
でしょうね。
所長はしかし、厳しい顔のままでした。
「一社止めても、別へ回す可能性はある」
「その前に、沢村さん側で動かないとですね」
「そうだな」
所長は机をとんとん叩きました。
「沢村さん。はっきり言います。あなたは愚かでした」
沢村さんの肩がびくりと揺れます。
「はい……」
「だが、愚かなことをした人間でも、全部を失っていいとは限らない。だから今から、取り返せる線を一緒に探す」
私はその言い方が好きでした。甘やかさない。でも見捨てない。
沢村さんは目を赤くして、深く頭を下げました。
「お願いします……」
その日の夜、事務所に一本の電話が入りました。
受けたのは私です。
「はい、大槻不動産です」
『あー、もしもし。新堂ですが』
来た。
「何でしょう」
『昼間は、ずいぶん威勢がよかったね』
「ありがとうございます」
『褒めてないよ』
「知ってます」
受話器の向こうで、ふっと笑う気配がしました。
『松岡に妙なことを吹き込んだそうじゃないか』
「事実関係を伝えただけです」
『若いのに怖いねえ』
「土地を“名義だけ”で動かす大人よりは、だいぶましだと思います」
少し、沈黙。
やり返されるかな、と思った瞬間、新堂さんは意外な声で言いました。
『……君、勉強してるんだろう』
「ええ、まあ」
『じゃあ教えてあげるよ。現実じゃ、正しい方が勝つとは限らないぞ』
「知ってます」
私は受話器を握り直しました。
「でも、嘘をついた方が最初から勝つとも限りません」
また沈黙。
その後、新堂さんは小さく笑って電話を切りました。
切った後で、ちょっとだけ手のひらに汗をかいているのに気づきました。
怖い。普通に怖いです。相手は明らかにこなれてるし、こちらは小娘ですし。
でも、言わなかったらたぶん、私は自分を嫌いになる。
「誰だ」
所長が顔を上げる。
「新堂さんです」
「何だって?」
「現実じゃ正しい方が勝つとは限らないぞ、だそうです」
真壁さんが鼻で笑いました。
「負け犬の予防線にしては早いな。いや、まだ油断するなよ」
所長は言いながらも、少しだけ口元を緩めました。
「だがまあ、効いてはいる」
翌日から、大槻不動産はちょっとした戦時体制に入りました。
・沢村さんの借入状況を洗う。
・新堂さんへの移転経緯を整理する。
・関係者への聞き取りを進める。
・下手に広げすぎず、しかし善意の第三者を作らないよう情報を入れる。
私はその全部の端っこで、せっせとメモを取り続けました。
気づいたことがあります。
バブル期の土地話って、みんな声が大きいんです。儲かる、上がる、今買わないと損、名義だけ、形だけ、いずれ戻す。
でも、本当に大事なことはだいたい小声で言われる。
――実は代金を払っていない。
――本当は売る気がない。
――差押えが怖かった。
――戻す約束は書いていない。
つまり、事件を解く鍵は、いつも小さい。
三日後。新堂さんは折れました。
完全降伏、ではありません。そんな綺麗なものじゃない。
ただ、松岡建設に警戒され、別の買い手にも話が通りにくくなり、こちらの聞き取りや時系列整理も進んだことで、この土地を“きれいな物件”として流すのが難しくなったのです。
所長の机を挟んで、再び向かい合った沢村さんと新堂さん。
今度は、新堂さんの方が少しだけ疲れて見えました。
「……元に戻す方向で、話し合いましょう」
沢村さんが、へなへなと力を抜きました。
「ほんとに……?」
「ただし、こちらも手間をかけてる。ゼロでは済まない」
「それは後で整理する」
所長がきっぱり遮ります。
「少なくとも、“有効に取得したから自由に売れる”という話は引っ込めてもらう」
新堂さんは返事をしませんでした。でも否定もしない。つまり、引っ込めざるを得ないのでしょう。
私はその横で、小さく息をつきました。
よかった。
まだ完全解決ではない。債務の問題も、沢村さん自身の甘さも残っている。けれど少なくとも、土地が知らない第三者の手へ流れていく最悪の線は、一旦止まった。
帰り際、沢村さんが私の前で深々と頭を下げました。
「栞さん……ありがとう」
「いいえ」
「あなたがいなかったら、私は……」
「たぶん別の形で、もっと痛い勉強をしてました」
私がそう言うと、沢村さんは情けないような、でも少し笑ったような顔になりました。
「……そうですね」
「次からは、“名義だけ”って言葉が出た時点で逃げてください」
「はい」
「全力で」
「はい……」
その背中を見送りながら、私は思いました。
人は追い詰められると、正しい道より、すぐ隠れられる路地に入りたくなる。
でも法律は、その路地がどこへ抜けるかを、案外ちゃんと知っています。
以下に私の作品へのリンク貼ってます。是非、手に取って頂ければと思います。また、ついでに評価ブックマーク頂ければ幸いです。




