第99話「トップを越えろ!」
夜明けの庭。
朝焼け色の花々が揺れる世界で。
アマネは、アルシアを真っ直ぐ見つめていた。
その瞳は優しかった。
そして、少しだけ寂しそうだった。
「アルシア。」
「……うん。」
『きいてる。』
「お願いがあるの。」
アルシアは静かに頷いた。
『なんでもする。』
『こんどこそ。』
『やくそくをまもる。』
アマネは困ったように笑った。
「そういうところ。」
「変わってないね。」
『……?』
「全部、自分で背負おうとする。」
「自分が悪かったって思って。」
「だから。」
「そんな顔しないで。」
『……。』
『でも。』
『わたしは。』
『かえってくるのがおそかった。』
「うん。」
「遅かった。」
「待った。」
「すごく寂しかった。」
アマネは正直に言った。
「でも。」
花びらを見上げる。
「だからって。」
「あなたの旅が間違いだったとは思わない。」
アルシアは、息を呑んだ。
『……。』
「だって。」
「あなた、たくさんの空を見たんでしょ?」
「たくさんの人と出会ったんでしょ?」
「泣いたり。」
「笑ったり。」
「迷ったり。」
「それでも帰ってきた。」
アマネは微笑んだ。
「それって。」
「すごく素敵なことだと思う。」
『……アマネ。』
『わたし。』
『それでも。』
『ここにいたい。』
『もう。』
『はなれたくない。』
その言葉に。
アマネは、ゆっくりと首を振った。
「だめ。」
『……。』
「アルシア。」
「前に進んで。」
夜明けの庭に静寂が落ちた。
ソラは息を止める。
ミナトも。
レイも。
誰も口を挟まなかった。
「私はね。」
アマネは空を見上げた。
「あなたの帰る場所だった。」
「それは本当。」
「でも。」
「もう。」
「それだけじゃなくていい。」
『……。』
『どういう、こと?』
アマネは笑った。
涙を浮かべながら。
「あなたも。」
「誰かの『おかえり』になって。」
『……。』
「誰かを待って。」
「誰かを迎えて。」
「誰かの帰る場所になって。」
「それが。」
「これからのあなたの旅だよ。」
アルシアは震えていた。
『……できる?』
『わたしに。』
『そんなこと。』
「できるよ。」
アマネは即答した。
「だって。」
「あなた。」
「帰ってきたもん。」
涙が零れ落ちた。
夜明け色の花に。
静かに。
いくつも。
ソラは、その光景を見つめていた。
胸の奥で。
何かがほどけていく。
「トップを越える。」
小さく呟く。
「……。」
「何だったんだろう。」
戦争。
終焉。
創造主。
帰還不能宙域。
銀花。
ノクターン。
アルシア。
アマネ。
たくさんの出会い。
たくさんの別れ。
最初は。
強くなりたかった。
負けたくなかった。
守りたかった。
英雄になりたかったのかもしれない。
でも。
違った。
ソラは前を向いた。
「トップを越えるって。」
「誰かを踏み越えることじゃなかった。」
レイが静かに聞く。
「では。」
「何だ。」
ソラは笑った。
涙を浮かべながら。
「誰かと一緒に。」
「明日へ進むこと。」
「失っても。」
「泣いても。」
「帰れなくなりそうになっても。」
「それでも。」
「おかえりって言い合える未来を選ぶこと。」
「それが。」
「トップを越えるってことなんだ。」
ミナトは鼻をすすった。
「……。」
「ずるいな。」
「え?」
「その答え。」
「技術者には思いつかない。」
「褒めてる?」
「悔しいけどな。」
レイは静かに笑った。
ほんの少しだけ。
「ようやく辿り着いたか。」
「遅かった?」
「君らしい。」
アルシアは、アマネを見つめた。
『……。』
『わかった。』
『わたし。』
『いく。』
『また。』
『たびにでる。』
「うん。」
アマネは頷いた。
「行ってらっしゃい。」
『……。』
『うん。』
『いってきます。』
ソラは、アルシアの隣に立った。
そして。
宇宙の彼方へ向かって。
高らかに宣言した。
「私は。」
「トップを越える。」
「何度でも。」
「怖くても。」
「迷っても。」
「誰かの『おかえり』に応えるために!」
夜明けの庭に、花びらが舞った。
それは祝福だった。
少女の答えを。
旅人の再出発を。
未来へ続く願いを。
そして。
アマネは最後に微笑んだ。
「うん。」
「それでこそ。」
「あなたたちだよ。」
終焉を越えた少女は。
ついに、「トップを越える」という言葉の本当の意味へ辿り着いた。
そして。
物語は、最後の一日へ向かう。
帰るべき場所へ。
また明日へ。




