表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トップを越えろ!2  作者: たむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
85/100

第85話「記憶樹の実」

銀色の花びらが舞っていた。


花のエリュシオンの中心。


記憶樹ユグラシアの下で、ソラは静かにその幹に触れていた。


温かい。


まるで誰かの手のひらのようなぬくもり。


「不思議だね。」


ソラは見上げた。


銀色の枝。


青い葉。


そして、星のように輝く無数の実。


それぞれが、誰かの記憶なのだという。


『記憶樹は、忘れたくない願いを結びます。』


リシアが静かに説明する。


『悲しみだけではなく。』


『喜びも。』


『約束も。』


『希望も。』


ミナトは興奮を隠せなかった。


「生体情報保存機構……?」


「いや、違う。」


「これは文化そのものの保存だ。」


「文明の集合記憶体……!」


レイは小さくため息をつく。


「落ち着け。」


「無理だ!」


ソラは笑った。


そして。


ふと、一つの実に目を留めた。


他の実よりも少しだけ青く。


淡い金色を帯びている。


不思議な引力があった。


「……あれ。」


『気になりますか?』


リシアが尋ねる。


「うん。」


『珍しいですね。』


『その実が、誰かを選ぶことは滅多にありません。』


「選ぶ?」


『はい。』


『記憶樹は、対話を望む相手に実を見せます。』


ソラはゆっくりと手を伸ばした。


「触ってもいい?」


『あなたが望むなら。』


指先が実に触れる。


その瞬間。


青い光が弾けた。


「……っ!」


視界が白く染まる。


風の音。


笑い声。


誰かの歌。


そして。


見知らぬ空。


それは銀花文明の記憶だった。


まだ花の都が小さかった頃。


銀花たちは宇宙を旅していた。


種を運び。


滅びゆく文明へ寄り添い。


新たな文明の誕生を祝っていた。


だが。


その中に。


ひとつだけ違う記憶があった。


泣いている銀花。


崩れゆく花の都。


折れた記憶樹の枝。


そして。


誰かの声。


『……帰りなさい。』


ソラは息を呑んだ。


「誰……?」


青い光の中。


一人の銀花が振り返った。


他の銀花とは違う。


その瞳には、深い青が宿っていた。


『あなたも。』


『帰る人なのですね。』


「え?」


『私は、帰れなかった。』


『だから。』


『あなたには帰ってほしい。』


悲しそうな微笑み。


そして。


優しい眼差し。


ソラの胸が締めつけられる。


「……帰れなかったの?」


『旅の途中で。』


『大切な人たちのもとへ戻れませんでした。』


『でも。』


『だからこそ願いました。』


『誰かが帰れるように。』


光景が変わる。


記憶樹に実が結ばれる。


青い実。


その中には。


「おかえり。」


「また明日。」


「待ってる。」


そんな声が詰まっていた。


「……っ。」


ソラの頬を涙が伝う。


『記憶は、悲しみだけではありません。』


銀花の女性は言う。


『帰りたいという願い。』


『帰ってきてほしいという願い。』


『それもまた、未来へ繋がる種です。』


「……うん。」


ソラは小さく頷いた。


「私。」


「帰ってこれた。」


「みんなが待っててくれたから。」


『知っています。』


『だから、この実はあなたを選びました。』


青い光が静かに揺れる。


銀花の女性は微笑んだ。


『どうか。』


『続きを生きてください。』


『私たちの分まで。』


視界が戻る。


花の都。


記憶樹の下。


ソラはその場に立ち尽くしていた。


「ソラ!」


ミナトの声。


「大丈夫か!?」


「うん。」


涙を拭う。


「大丈夫。」


レイが静かに尋ねる。


「何を見た。」


ソラは記憶樹を見上げた。


「帰れなかった人の記憶。」


「でも。」


少し笑った。


「帰ってほしいって願いだった。」


風が吹く。


青い実が静かに揺れる。


まるで。


「よろしくね。」


と囁くように。


ソラは、そっと手を振った。


「ありがとう。」


「ちゃんと生きる。」


「ちゃんと帰る。」


「何度でも。」


記憶樹の実は、再び静かに輝いた。


失われた願い。


届かなかった想い。


それでも。


誰かの未来を照らす光になる。


終焉を越えた少女は知る。


「おかえり」という言葉には。


帰れなかった誰かの願いも込められているのだと。


そして。


記憶樹の最上部。


誰にも気づかれない場所で。


新しい実が、ひとつだけ結ばれた。


淡い青色。


まだ小さなその実には。


たった一つの言葉が宿っていた。


『行ってらっしゃい。』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ