第82話「未知との遭遇」
火星を発った探査艦は、静かに銀河外縁を進んでいた。
終焉戦争によって失われた航路。
再構築された重力ネットワーク。
そして、誰も足を踏み入れたことのない未知宙域。
人類は再び、「知らないもの」へ手を伸ばしていた。
「異常なし。」
「重力航法、安定。」
「外殻温度正常。」
艦橋には穏やかな声が流れる。
警報もない。
砲撃もない。
ただの航海。
それだけなのに。
「……落ち着かない。」
ソラは椅子の上でもぞもぞした。
「戦闘でもしたいのか。」
レイが呆れたように言う。
「違うよ!」
「でも、こう。」
「平和すぎて変な感じ。」
「贅沢な悩みだな。」
ミナトは端末を操作しながらため息をついた。
「戦争が終わって半年。」
「ようやく普通の探査任務だ。」
「頼むから何も起きるな。」
ソラは真顔で頷いた。
「うん。」
その瞬間。
『警報。警報。』
艦橋に赤い光が走った。
「嘘でしょ!?」
「お前のせいだ!」
「違うよ!?」
オペレーターが叫ぶ。
「前方宙域に重力異常!」
「既知の航路図に存在しない反応!」
ミナトが顔をしかめる。
「終焉戦争の残滓か?」
DENEBの解析が表示される。
《該当データなし》
《既知宇宙との一致率、0.0003%》
沈黙。
そして。
ソラは立ち上がった。
「……未知?」
艦橋の巨大スクリーンに映し出されたのは。
星ではなかった。
惑星でもない。
巨大な「花」のような構造体。
宇宙空間に浮かび。
銀色の花弁を広げ。
その中心には、青い光が脈打っている。
「……きれい。」
誰かが呟いた。
誰も否定しなかった。
レイが低く言う。
「兵器か。」
「分からない。」
ミナトが震える声で答える。
「でも。」
「こんな構造体、人類の記録には存在しない。」
ソラは前へ出た。
「通信、送れる?」
「危険だ。」
「でも。」
ソラは笑った。
「今度は、最初から撃たなくていいんでしょ?」
通信回線が開かれる。
静寂。
ノイズ。
そして。
青い光が揺れた。
『……観測。』
その声は。
どこか懐かしかった。
機械のようで。
優しくもあり。
遠くもある。
『あなたたちは。』
『終焉を越えた者たちですか。』
艦橋が凍りついた。
レイが目を細める。
「何者だ。」
沈黙。
そして。
銀色の花は、静かに答えた。
『私たちは。』
『あなたたちを待っていました。』
ソラは息を呑んだ。
「……待ってた?」
『はい。』
『創造主の涙を知る者たち。』
『終わりの向こうを選んだ者たち。』
『ようこそ。』
青い光が、花弁の奥で優しく瞬く。
『新しい宇宙へ。』
ミナトが青ざめる。
「新しい……宇宙?」
DENEBの解析結果が更新される。
《対象は既知宇宙外存在》
《終焉戦争以前の記録なし》
《結論――》
《未知文明とのファーストコンタクト》
沈黙。
そして。
ソラは、ゆっくりと笑った。
恐怖はあった。
不安もあった。
でも。
胸の奥で、確かな高揚が燃えていた。
「……そっか。」
「本当に。」
「続きを見に来たんだ。」
銀色の花が開く。
その奥には、誰も知らない空が広がっていた。
終焉の向こう側。
創造主のさらに先。
まだ見ぬ可能性。
アマミヤ・ソラは、一歩前へ出る。
戦うためではない。
知るために。
手を伸ばすために。
「はじめまして。」
少女は笑った。
「私はアマミヤ・ソラ。」
「人類代表……はちょっと違うけど。」
少し考えて。
照れくさそうに続けた。
「宇宙の続きを見に来ました。」
銀色の花は静かに揺れた。
まるで、微笑んだように。
そして。
終焉を越えた物語は。
新たな出会いと共に、次の章へ進み始める。




