第80話「新しい空へ」
戦争が終わって、三か月が過ぎた。
火星都市アルカディア。
復興工事の音が、朝の目覚まし代わりになっていた。
かつて焼け焦げた区画には、新しい建物が建ち始めている。
失われた星々から避難してきた人々も、少しずつこの街の一部になっていた。
宇宙は、前へ進んでいた。
「遅刻するぞ。」
「うわぁぁぁっ!?」
ソラはベッドから転がり落ちた。
「なんで起こしてくれないの!?」
「三回起こした。」
「えっ。」
「寝言で『あと五分……』と言った。」
「……覚えてない。」
食堂。
ミナトが新聞端末を読みながら呆れた顔をする。
「宇宙を救った英雄の朝がこれか。」
「英雄じゃないもん。」
「寝坊の天才だな。」
「褒めてないよね?」
「褒めてない。」
ニュースが流れる。
『銀河復興評議会、正式発足』
『新型GF技術の民間転用開始』
『失われた星系記録復元プロジェクト進行中』
『終焉戦争資料館、来月開館予定』
戦うためだけだった技術が、人を助けるために使われ始めていた。
重力制御は医療へ。
艦隊技術は輸送へ。
GFの補助フレームは災害救助へ。
ソラはパンをかじりながら言った。
「なんか、不思議だね。」
「何がだ。」
レイがコーヒーを置く。
「昔は、明日が来るか分からなかったのに。」
窓の外を見る。
「今は、明日の予定で悩んでる。」
「それが平和だ。」
レイは静かに言った。
「退屈か?」
「ううん。」
ソラは笑った。
「ちょっと嬉しい。」
その日の午後。
訓練校の屋上。
ソラは空を見上げていた。
火星の人工空。
その向こうに、本物の宇宙がある。
終焉を越えた宇宙。
失われたものもある宇宙。
それでも続いている宇宙。
「先輩!」
SPICA第三小隊の少年たちが駆け上がってきた。
「聞きました!?」
「何を?」
「新しい長距離探査計画!」
「外縁宙域調査隊!」
ソラは目を瞬かせた。
「探査?」
「はい!」
少年は目を輝かせる。
「終焉戦争のあと、未知宙域がたくさん見つかったんです!」
「今度は、戦うためじゃなくて。」
「見つけに行くための宇宙です!」
ソラは言葉を失った。
そして。
静かに笑った。
「そっか。」
「次は、探しに行くんだ。」
ミナトが後ろから言う。
「当然、希望者は多い。」
「お前も行くか?」
「え?」
「新しい空だ。」
「戦場じゃない。」
「選べ。」
ソラは空を見上げた。
終焉の向こう側。
創造主の涙。
帰還不能宙域。
失われた星々。
全部を思い出す。
「……行きたい。」
「理由は?」
レイが尋ねる。
ソラは笑った。
「続きを見たいから。」
「それだけか。」
「うん。」
少し考えて。
「あと。」
「今度は、怖くない宇宙も見てみたい。」
風が吹いた。
火星の空を、白い雲が流れていく。
ソラは立ち上がる。
「よし。」
「じゃあ。」
「次の目標!」
拳を握る。
「新しい空へ!」
SPICAの少年たちが歓声を上げる。
「おおーっ!」
ミナトは頭を抱える。
「また厄介事を拾いそうだな……。」
レイは小さく笑った。
「それでこそだ。」
アマミヤ・ソラは、もう終焉に怯える少女ではない。
泣いて。
笑って。
迷って。
それでも進む。
トップを越えたその先には。
まだ見ぬ宇宙が広がっている。
戦いではなく。
希望のために。
空の向こうには、新しい星々が待っている。
そして少女は。
もう一度、歩き出す。
「行こう。」
「明日へ。」
「新しい空へ。」




