第78話「失われた星々」
歓声は、いつか静かになる。
祭りは終わる。
英雄は日常へ戻る。
だが。
失われたものは、戻らない。
終焉戦争終結から二週間。
火星都市アルカディア。
ソラは黒い制服に袖を通していた。
「……似合わないな。」
鏡の前で呟く。
「喪服だからな。」
レイが静かに答えた。
今日は、追悼式だった。
銀河統一追悼記念日。
終焉戦争で失われた人々を悼む日。
火星中央広場。
広大な慰霊公園には、無数の名前が刻まれていた。
艦隊乗員。
SPICAのパイロット。
新世代GF部隊。
民間人。
避難誘導員。
そして。
記録すら残らなかった星々。
ソラは花を供えた。
「……ただいま。」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。
帰れなかった人たちへ。
帰る場所を失った人たちへ。
あるいは。
生き残った自分自身へ。
ミナトが隣に立つ。
「英雄らしくスピーチしろって言われた。」
「断った。」
「だろうな。」
「無理だもん。」
沈黙。
広場には風が吹いていた。
人工樹木の葉が揺れる。
子どもの泣き声が聞こえる。
誰かのすすり泣きも。
ソラは慰霊碑を見上げた。
そこには、星の名前も刻まれていた。
防衛しきれなかった植民星。
終焉波に飲まれた小惑星都市。
帰還しなかった艦隊。
守れなかった空。
「全部は救えなかった。」
ぽつりと呟く。
レイは否定しなかった。
「そうだ。」
「……うん。」
ソラは目を伏せた。
「悔しいな。」
その時。
背後から声がした。
「先輩。」
振り返る。
SPICA第三小隊の少年だった。
制服姿で、花束を抱えている。
「約束、守れなかった人もいました。」
「でも。」
少年は笑った。
「先輩がいたから、僕たちは生きてます。」
ソラは言葉に詰まった。
「……ありがとう。」
「でも。」
「忘れないでください。」
少年は慰霊碑を見る。
「失った人たちも。」
「うん。」
ソラは頷いた。
「絶対に忘れない。」
追悼式が始まる。
銀河中継。
火星、木星、土星、外縁植民地。
すべての星で、同じ時間に黙祷が捧げられる。
司令官の声が響く。
「我々は勝利した。」
「だが、その勝利は多くの犠牲の上にある。」
「失われた命を忘れず。」
「生き残った者は、明日を繋げなければならない。」
黙祷。
一分間。
誰も言葉を発しない。
ソラは目を閉じた。
火星の夕焼け。
戦場の光。
創造主の涙。
帰還不能宙域。
そして。
「おかえり。」
という声。
目を開く。
空は青かった。
人工気象なのに。
本物みたいに。
どこまでも続いていた。
「ねえ、レイ。」
「なんだ。」
「宇宙ってさ。」
少し考える。
「優しくないね。」
レイは頷いた。
「ああ。」
「理不尽だし。」
「ああ。」
「いっぱい奪う。」
「そうだな。」
ソラは空を見上げた。
そして。
笑った。
「でも。」
「だからこそ。」
「生きてる人が、優しくしないとね。」
レイは何も言わなかった。
だが。
ほんの少しだけ。
口元が緩んだ。
追悼式が終わる。
人々は帰路につく。
明日の仕事へ。
学校へ。
家族のもとへ。
それぞれの日常へ。
ソラは最後に、慰霊碑へ向き直った。
「また明日。」
「みんなの分まで、ちゃんと生きる。」
風が吹いた。
花びらが舞った。
まるで。
「よろしく。」
と返事をされたようだった。
終焉戦争は終わった。
だが、その傷は消えない。
失われた星々は戻らない。
それでも。
人類は歩き続ける。
泣きながら。
笑いながら。
空を見上げながら。
そして、アマミヤ・ソラは知る。
トップを越えるということは。
誰かを踏み越えることではない。
失ったものを忘れずに。
それでも前へ進むことなのだと。




