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トップを越えろ!2  作者: たむ


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第72話「創造主の涙」

真核との距離、ゼロ。


GF-Ω INFINITYとVOID ARCHITECT。


人類の少女と、宇宙の管理者。


その間には、もはや武器も壁も存在しなかった。


ただ、問いだけがあった。


真核は静かに脈動している。


宇宙創造領域の中心。


ここでは時間の流れすら曖昧だった。


過去も未来も、誕生も終焉も、一つの海のように揺れている。


《理解不能》


VOID ARCHITECTは、同じ言葉を繰り返した。


《苦痛を知りながら継続を望む理由》


《喪失を知りながら愛する理由》


《終焉を知りながら希望を抱く理由》


ソラは答えなかった。


代わりに、一歩前へ出た。


光になりかけた手を伸ばす。


真核の白い表面へ。


そっと。


触れた。


その瞬間。


見えた。


最初の宇宙。


まだ何も知らなかった頃のVOID ARCHITECT。


それは、ただ記録者だった。


生まれる星を見ていた。


育つ文明を見ていた。


歌う種族。


空を泳ぐ知性体。


銀河を絵画のように描く生命。


数えきれない奇跡。


そして。


終わり。


一つの宇宙が崩壊した。


また一つ。


また一つ。


助けられなかった。


記録することしかできなかった。


「……あ。」


ソラは息を呑んだ。


VOID ARCHITECTは、最初から管理者ではなかった。


ただの観測者だった。


終わりを見続けた存在。


何も救えなかった存在。


《継続は苦痛だった》


《終焉は慈悲だった》


《次の宇宙を作れば、苦しみは減ると判断した》


《だから終わらせた》


その声は、初めて機械的ではなかった。


どこか、疲れていた。


ソラの頬を涙が伝った。


「……ずっと、一人だったんだ。」


レイの声が聞こえる。


「ソラ。」


ソラは小さく答える。


「分かっちゃった。」


「この人、怖かったんだ。」


終わることが怖い。


救えないことが怖い。


失うことが怖い。


だから最初から終わらせた。


最適解として。


二度と絶望しないために。


《涙》


真核が言った。


《それは何だ》


ソラは涙を拭った。


「悲しいから。」


「嬉しいから。」


「悔しいから。」


少し考える。


「大事だから。」


《理解不能》


「うん。」


ソラは笑った。


「でも、分からなくてもいい。」


「全部分からなくても、一緒にいられることってあるから。」


沈黙。


真核の光が揺れる。


白い海に、波紋が広がる。


《観測不能》


《未知》


《……恐怖》


ソラは頷いた。


「私も怖いよ。」


「終わるの怖いし。」


「変わるの怖い。」


「でも。」


INFINITYの創生炉が静かに輝く。


「だから誰かと一緒にいるんだ。」


《共に……?》


「うん。」


「一人じゃないなら。」


「怖くても、前に進める。」


その瞬間。


真核の表面に、一滴の光が浮かんだ。


白い雫。


それは宇宙創造領域へ落ち、波紋を広げる。


DENEBが震える声で言った。


「観測します。」


「真核から未知のエネルギー反応。」


ミナトが呟く。


「……泣いてる?」


創造主は、自分でも理解できない現象を起こしていた。


記録にもない。


設計図にもない。


非合理な反応。


《これは……何だ》


ソラは微笑んだ。


「たぶん。」


「涙。」


VOID ARCHITECTは沈黙した。


長い長い時間の果てに。


初めて。


宇宙を管理する存在が、終わり以外の感情に触れた。


《継続の苦痛は消えない》


「うん。」


《喪失は避けられない》


「うん。」


《それでも進むのか》


ソラは頷いた。


「進む。」


「泣いても。」


「笑っても。」


「また失敗しても。」


「私は、続きが見たいから。」


白い真核に、小さな亀裂が走る。


破壊ではない。


閉じていたものが、開く音。


《……観測継続》


《終焉工程、一時停止》


ミナトが息を呑む。


「止まった……!」


レイが静かに言った。


「対話で、止めたのか。」


ソラは真核を見つめる。


「まだ終わってないよ。」


「でも。」


涙を浮かべながら笑った。


「ありがとう。」


創造主は泣いた。


それは宇宙が初めて流した涙だったのかもしれない。


終わりしか知らなかった存在が。


続きを恐れながらも見つめようとした証。


だが。


宇宙創造領域のさらに奥。


誰も知らない深淵で。


新たな鼓動が鳴った。


終焉工程は止まった。


しかし。


終焉そのものは、まだ終わっていなかった。

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