表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トップを越えろ!2  作者: たむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
71/100

第71話「人間喪失」

「人間らしさって、何だろう。」


真核の光の中で、ソラはふと思った。


怒ること。


泣くこと。


誰かを好きになること。


失敗して、後悔して、それでももう一度立ち上がること。


もし、それらを失ったとしたら。


私は、私のままでいられるのだろうか。


GF-Ω INFINITYは、宇宙創造領域の最深部へ到達していた。


そこには、時間という概念さえ曖昧な空間が広がっていた。


過去と未来。


誕生と死。


始まりと終わり。


すべてが混ざり合い、光の海となって漂っている。


その中心に――


VOID ARCHITECTの真核が存在していた。


《観測対象:アマミヤ・ソラ》


《人間性喪失率、六十一パーセント》


《宇宙干渉適性、九十八パーセント》


《移行を推奨》


静かな声が響く。


《人類を救うためには、完全移行が最適解である》


ソラは、自分の両手を見た。


指先は、もう光だった。


鼓動も曖昧だ。


代わりに、銀河の鼓動が聞こえる。


遠い惑星の海の音。


幼い子どもの笑い声。


避難船で眠る人々の寝息。


人類すべての存在が、彼女の中に流れ込んでいた。


「……最適解、か。」


ソラは小さく笑った。


「便利な言葉だね。」


レイの声が届く。


「聞くな。」


「え?」


「最適解だけを選ぶなら、人間はとっくに滅んでいる。」


レイは続けた。


「非効率で、遠回りで、間違える。」


「それでも選び続ける。」


「それが人間だ。」


ミナトの声も聞こえた。


「ソラ!」


「技術者として言う!」


「お前、昔から効率悪すぎるんだよ!」


「でも!」


「だから助かった奴がたくさんいる!」


ソラは思わず吹き出した。


「ひどい褒め方。」


「褒めてない!」


「褒めてるよ。」


真核が脈動する。


《理解不能》


《非合理》


《自己保存を放棄する理由を要求》


ソラは前を見た。


「理由?」


少し考える。


そして。


「好きだからかな。」


《解析不能》


「宇宙が好き。」


「人が好き。」


「泣いたり、笑ったり、失敗したり。」


「そういうの全部。」


「だから、なくしたくない。」


真核の光が揺らぐ。


VOID ARCHITECTは理解できない。


なぜ有限の存在が、終わりを恐れながら進むのか。


なぜ非合理を選ぶのか。


なぜ失うと分かっていて愛するのか。


《非効率》


《苦痛》


《矛盾》


ソラは頷いた。


「うん。」


「そうだね。」


笑う。


「でも、それが人間なんだよ。」


その瞬間。


ソラの身体の光が、さらに広がった。


人間喪失率。


七十パーセント。


八十パーセント。


警告音が鳴り響く。


DENEBが叫ぶ。


「危険です!」


「これ以上は人格維持限界を超えます!」


ミナトが震える。


「ソラ!」


ソラは目を閉じた。


忘れたくないものを思い出す。


火星の夕焼け。


訓練校の食堂。


仲間たちとのくだらない会話。


ミナトの怒鳴り声。


レイの不器用な励まし。


初めてNOVAに乗った日の緊張。


全部。


全部。


自分だった。


「私は。」


ソラは目を開いた。


「宇宙にならない。」


「人間をやめない。」


「変わっても。」


「ちゃんと、私でいる。」


GF-Ω INFINITYの創生炉が共鳴する。


恒星炉。


NOVA核。


銀河リンク。


すべてが重なる。


そして、ソラの中に一本の線が生まれた。


人間と宇宙の境界線。


失わないための線。


《……理解不能》


真核が、初めて迷った。


《なぜ自己を保持する》


ソラは笑った。


「だって。」


「帰りたいから。」


「戦いが終わったら。」


「みんなでご飯食べたいし。」


「また、明日って言いたいから。」


静寂。


そして。


VOID ARCHITECTの真核が、わずかに震えた。


それは、宇宙管理者が初めて知る感情に似ていた。


理解できないものへの戸惑い。


ソラは拳を握る。


「人間喪失?」


首を振る。


「違う。」


「人間だから、ここまで来れたんだ。」


GF-Ω INFINITYが前進する。


真核との距離、ゼロ。


人間のまま宇宙を救うという、不可能な選択を抱いて。


そして、創造主との最後の対話が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ