第69話「禁断兵器」
禁断兵器。
その言葉は、ただ危険な兵器を意味しない。
使えば勝てる。
だが、勝ったあとに世界が残るとは限らない。
GF-Ω INFINITYの最深部に封印されていた兵装。
それが今、起動しようとしていた。
ミナトの声が震える。
「ソラ……」
「Ω炉の奥に、まだ何かある。」
レイが問う。
「武装か。」
ミナトは沈黙したあと、答えた。
「違う。」
「これは――宇宙を“折る”装置だ。」
封印名。
オメガ・フォールド。
空間ではない。
時間でもない。
宇宙の構造そのものを折り畳み、敵の存在領域を圧縮する兵器。
使えばVOID ARCHITECT本体に届く。
だが失敗すれば、現在宇宙の一部が永遠に潰れる。
ソラは、INFINITYの中心で目を閉じた。
目の前に、巨大な扉がある。
その向こうから、冷たい光が漏れている。
NOVA核が震えていた。
まるで「開けるな」と言うように。
レイの声が届く。
「使うな。」
短い言葉だった。
ソラは少し笑った。
「珍しいね、止めるなんて。」
「これは勝つための力ではない。」
レイは言った。
「終わらせる力だ。」
VOID ARCHITECTが再び動く。
全宇宙終焉工程が進む。
銀河の外側から、現宇宙の境界が剥がれ始める。
星々の光が、薄い膜のようにめくれていく。
DENEBが叫ぶ。
「宇宙境界、崩壊!」
「このままでは銀河以前に、宇宙そのものが開かれます!」
ソラは拳を握る。
「じゃあ、届かせるしかない。」
ミナトが叫ぶ。
「オメガ・フォールドは使うな!」
「せめて制御式を――」
ソラは静かに言った。
「制御する。」
「私一人じゃない。」
銀河リンクが輝く。
壊れたGFも、残った艦隊も、惑星防衛線も。
すべてがINFINITYへ繋がる。
ソラは扉へ手を伸ばした。
「禁断ってさ。」
「誰も責任を取れない力のことでしょ。」
少し笑う。
「だったら、みんなで責任取ろう。」
扉が開く。
INFINITYの背後に、巨大なΩ型の重力環が現れる。
宇宙が震えた。
VOID ARCHITECTが明確に反応する。
《危険》
《宇宙構造崩壊兵装》
《即時排除》
黒い波が殺到する。
だがINFINITYは退かない。
恒星炉が光を放ち、創生炉が青く燃え、Ω環が宇宙の境界を掴む。
ソラが叫ぶ。
「オメガ・フォールド――」
レイが静かに重ねる。
「出力同期。」
ミナトが叫ぶ。
「制御式、全銀河リンクへ分散!」
DENEBが続く。
「観測固定!」
ソラは前を見た。
「行けぇぇぇ!!」
宇宙が折れた。
VOID ARCHITECTの巨大すぎる存在領域が、INFINITYの前へ引き寄せられる。
遠すぎた創造主の中枢が、初めて射程に入る。
だが同時に、銀河の一部が悲鳴を上げた。
星々の軌道が歪む。
惑星防衛線が震える。
ソラは歯を食いしばる。
「持って……!」
無数の声が返る。
「持たせます!」
「まだいける!」
「折れるな、宇宙!!」
INFINITYの拳が青白く燃える。
終わりを折り畳み、始まりへ繋ぐ拳。
ソラは叫んだ。
「これが禁断なら――」
「私たちが、禁断を越える!!」
拳がVOID ARCHITECTの中枢へ叩き込まれた。
黒い構造体に、銀河より深い亀裂が走る。
創造主が、初めて沈黙した。
だが。
その亀裂の奥から、さらに巨大な光が漏れる。
VOID ARCHITECTの真核。
宇宙創造領域。
レイが呟く。
「届いた。」
ソラは荒い息を吐く。
「うん。」
「でも、ここからが本当の中。」
禁断兵器は使われた。
宇宙は壊れなかった。
だが、完全に無傷でもなかった。
もう後戻りはできない。
INFINITYは、創造主の真核へ進む。
終わりと始まりが重なる場所へ。




