第64話「銀河崩壊」
銀河が、軋んだ。
終焉装置は停止した。
だが、その停止は勝利ではなかった。
VOID ARCHITECTは、銀河中心を経由した局所リセットを諦めた。
代わりに――
銀河そのものを崩壊させ始めた。
DENEBが叫ぶ。
「銀河腕、重力崩壊!」
「星系間距離が縮んでいます!」
ミナトが青ざめる。
「銀河全体を圧縮してる……!」
星々が軌道を外れる。
恒星同士が引き寄せられ、星間ガスが巨大な渦となる。
銀河は、美しい渦巻きではなくなっていく。
ひとつの黒い穴へ向かう、巨大な墓標。
ソラはCOSMOSの中で、その痛みを感じていた。
「……銀河が、泣いてる。」
レイが言う。
「止められるか。」
ソラは一瞬だけ黙る。
そして笑った。
「止める。」
COSMOSが両腕を広げる。
銀河リンク最大展開。
SPICA、新世代GF、艦隊、惑星防衛線。
すべての青い光が星々を繋ぎ止める。
「みんな!」
ソラが叫ぶ。
「星を離さないで!」
銀河全域から声が返る。
「了解!」
「火星圏、重力固定!」
「木星圏、支えます!」
「外縁星系、まだ持つ!」
青い重力線が、崩れかけた銀河を縫い止める。
だがVOID ARCHITECTの力は圧倒的だった。
一本、また一本と、青い線が切れていく。
ミナトが叫ぶ。
「出力が足りない!」
「銀河全体の崩壊は支えきれない!」
ソラは歯を食いしばる。
「足りないなら――」
NOVA核が燃える。
「もっと出す!」
COSMOSの光が増す。
だが同時に、ソラの身体が薄れ始める。
意識が銀河へ溶けていく。
レイが叫ぶ。
「ソラ、戻れなくなる!」
ソラは答える。
「分かってる!」
「でも、今止めないと全部終わる!」
その瞬間。
VOID ARCHITECTの完全な声が響く。
《継続不能》
《現在宇宙、崩壊確定》
《次宇宙への移行を開始する》
ソラは叫んだ。
「勝手に決めるな!!」
COSMOSが拳を握る。
銀河中心へ向けて、全重力を叩き込む。
青い光が黒い圧縮波と衝突する。
一瞬、崩壊が止まった。
だが。
次の瞬間。
銀河外縁の星系が、ひとつ消えた。
またひとつ。
またひとつ。
DENEBの声が震える。
「防衛線、崩壊……!」
「銀河外縁、消失開始!」
司令官が静かに言う。
「全艦隊、COSMOSへエネルギーを送れ。」
オペレーターが振り返る。
「それでは艦隊が――」
「構わん。」
司令官は前を見た。
「我々は、星を守るためにここにいる。」
艦隊の重力炉が次々とCOSMOSへ接続される。
戦艦の光が消えていく。
それでも、青い線は太くなる。
ソラは泣きそうな声で言った。
「やめて……」
司令官の声が届く。
「アマミヤ・ソラ。」
「君だけに背負わせるな。」
ソラは目を閉じる。
そして、開く。
「……分かりました。」
COSMOSの光が銀河全体へ広がる。
青い網が、崩れゆく星々を包む。
だがVOID ARCHITECTはさらに力を増す。
銀河中心が黒く沈む。
星々の軌道が砕ける。
そしてついに――
銀河の一部が、裂けた。
レイが低く言う。
「限界だ。」
ソラも分かっていた。
COSMOSでは足りない。
GF-Σでは銀河を支えきれない。
必要なのは、さらに上。
銀河全体を超える器。
そのとき。
NOVA核の奥から、古い記録が開く。
前宇宙の最終計画。
未完成の神機。
その名は――
GF-Ω INFINITY
ソラは呟く。
「……次の機体。」
ミナトが息を呑む。
「まさか、Ω計画……」
銀河が崩壊する中、希望はまだ残っていた。
だがそれは、禁断の希望だった。
起動すれば、銀河を救えるかもしれない。
同時に、宇宙を壊すかもしれない。
ソラは前を見る。
「やるしかない。」
銀河は崩壊を始めた。
COSMOSは限界を迎えた。
そして人類は、ついに封印された神機へ手を伸ばす。




