第55話「GF-Σ誕生」
GF-Σ COSMOSは、完成した。
だが完成とは、終わりではない。
それは――
人類が初めて、銀河そのものを機体にした瞬間だった。
試験宙域には、青い星座のような光が広がっていた。
中心に立つCOSMOS。
その周囲を囲むSPICA部隊。
さらに外側で同期する新世代GF。
そして背後には、無数の艦隊重力炉。
すべてが一本の巨大な重力神経として接続されている。
ミナトが呆然とモニターを見つめる。
「……安定してる。」
「理論上、ありえない安定率だ。」
DENEBが言う。
「銀河全域のGFが、COSMOSを支えてる。」
レイが静かに答える。
「違う。」
「COSMOSが、銀河全域を支えている。」
ソラは白い内部空間で目を開いた。
そこには、もう孤独はなかった。
無数の光。
SPICAのパイロット。
艦隊の乗員。
整備士。
管制官。
星々を守る人々。
すべてが、細い重力線で繋がっている。
「……聞こえる?」
ソラが問いかける。
すぐに、無数の声が返る。
「聞こえます!」
「こちら火星隊、同期良好!」
「木星艦隊、重力炉接続!」
「外縁義勇軍、まだ戦えます!」
ソラは笑った。
「よし。」
「じゃあ、行こう。」
その瞬間。
VOID ARCHITECTが動いた。
銀河外縁の黒い空白が、大きく広がる。
これまでの侵食とは違う。
本格的な降臨。
宇宙の外側から、巨大な構造体が押し込まれてくる。
星々が軌道を失い、銀河腕が歪む。
観測官が叫ぶ。
「VOID ARCHITECT、本体出現率三十パーセント!」
「銀河外縁、崩壊開始!」
司令官が命じる。
「GF-Σを前線へ。」
COSMOSが動く。
だがその動きは、これまでと違った。
一歩踏み出すたびに、銀河全域の青い光が応答する。
まるで、星々そのものが歩いているようだった。
VOID ARCHITECTの前に、無数のヴォイド群が展開する。
リヴァイアサン。
コロッサス。
タイタン。
VOID-GF。
NULL量産型。
銀河を覆う黒い軍勢。
ソラは静かに言った。
「全部、相手する。」
レイが答える。
「正面突破か。」
ソラは笑う。
「うん。」
「人類、正面から行くの好きでしょ。」
GF-Σ COSMOSの胸部が開く。
NOVA核が輝く。
その光は、もう一機の炉心ではない。
人類全体の意思を束ねる中心。
ミナトが叫ぶ。
「Σ重力炉、臨界!」
「銀河リンク、全域安定!」
「GF-Σ、正式起動!」
司令官が宣言する。
「これより本機を、人類最終防衛中枢と認定する。」
「名称――」
青い巨神が、銀河の闇に立つ。
GF-Σ COSMOS
その名が、全艦隊へ流れる。
歓声ではなく、静かな覚悟が返る。
COSMOSが拳を握る。
青い重力が渦を巻く。
敵軍が押し寄せる。
ソラは叫んだ。
「GF-Σ COSMOS!」
「出る!!」
COSMOSが突撃する。
その背に、銀河全域の光を背負って。
最初の一撃。
拳が振るわれる。
リヴァイアサン群がまとめて吹き飛ぶ。
第二撃。
重力翼が広がり、VOID-GF部隊を空間ごと切り裂く。
第三撃。
銀河リンクから集めたエネルギーが槍となり、タイタン級を貫く。
敵が崩れる。
人類艦隊が続く。
数えきれない光の砲撃が、COSMOSの進路をさらに広げる。
VOID ARCHITECTの黒い外殻に、再び亀裂が走る。
今度は小さくない。
銀河外縁に届くほどの巨大な傷。
DENEBが叫ぶ。
「敵本体に損傷確認!」
「GF-Σ、効果あり!」
ソラは息を吐く。
「届いた。」
レイが言う。
「だが、まだ浅い。」
ソラは頷く。
「うん。」
「だから、もっと深く行く。」
そのとき。
VOID ARCHITECTの内部から、新しい影が現れた。
巨大な人型。
NULLとは違う。
COSMOSを模倣した、黒い巨神。
ミナトが青ざめる。
「もう対応してきた……!」
DENEBが識別名を表示する。
《VOID-GF TYPE SIGMA》
黒いCOSMOS。
VOID-Σ。
それが静かに拳を構えた。
ソラは目を細める。
「鏡ばっかり出してくるね。」
レイが言う。
「こちらを理解するほど、敵は近づいてくる。」
ソラは笑った。
「じゃあ、理解できないくらい進化する。」
青いCOSMOSと黒いSIGMAが、銀河外縁で向かい合う。
人類が生んだ巨神。
宇宙の管理者が模倣した巨神。
ソラは操縦桿を握った。
「いくよ、みんな。」
無数の声が応える。
行こう。
COSMOSの目が光る。
銀河全域が、それに呼応して瞬いた。
GF-Σは誕生した。
そしてその瞬間から。
人類はもう、守られるだけの存在ではなくなった。
宇宙へ拳を届かせる、ひとつの巨大な生命になったのだ。




