第53話「COSMOS計画」
COSMOS計画は、本来なら存在してはならない計画だった。
五機のGFを一つに統合する。
NOVAのビッグバン炉を中枢にする。
人類の意識と、重力場と、宇宙ログを接続する。
それは兵器開発ではない。
人類が宇宙に触れるための儀式だった。
ミナトは格納庫の管制席で、COSMOSのデータを睨んでいた。
「やっぱり無理がある……」
COSMOSは強い。
だが、安定していない。
五機のGFは本来、一つの巨大存在の断片だった。
だから統合はできる。
しかし、中心にいるソラの負荷が大きすぎた。
レイが通信越しに言う。
「ソラの状態は。」
ミナトは苦い顔をする。
「肉体は無事。」
「でも意識がCOSMOS側に引っ張られてる。」
「このまま長時間戦えば、人間として戻れなくなる。」
白い内部空間。
ソラは一人、立っていた。
周囲には銀河の重力線が見える。
星々の悲鳴。
艦隊の砲火。
消えかけた人々の記録。
その全部が、彼女の中へ流れ込んでくる。
「……重いなぁ。」
ソラは笑った。
でも、その笑顔は少し疲れていた。
そのとき、前方に映像が浮かぶ。
宇宙ログ。
前宇宙のORIGIN FRAME計画。
そこには、COSMOSに似た巨神が映っていた。
だが、完成直前で崩壊している。
原因は――
中枢パイロットの消失。
ミナトが青ざめる。
「前宇宙でも同じことが起きたんだ。」
「機体が完成する前に、パイロットが宇宙と融合して戻れなくなった。」
レイの声が低くなる。
「ソラも同じ危険がある。」
ソラは映像を見つめた。
前の自分かもしれない少女。
巨大機の中心で、光に溶けていく姿。
そして最後に残された言葉。
《機体は完成した》
《だが、人が残らなかった》
ソラは目を閉じる。
「……そっか。」
「だから失敗したんだ。」
COSMOSは人類を宇宙の外側へ届ける。
だがそのために、人間を捨ててしまえば意味がない。
宇宙を守るために、人類が人類でなくなるなら。
それはVOID ARCHITECTと同じだ。
ソラは静かに言った。
「COSMOS計画を変えよう。」
ミナトが驚く。
「今から!?」
「うん。」
「中心を私だけにしない。」
レイが理解する。
「人類全体へ分散するのか。」
ソラは頷く。
「前に意識が繋がったでしょ。」
「あれを一時的じゃなくて、システムにする。」
ミナトは端末を叩く。
「理論上は可能だ。」
「でも、人類全体の意識負荷を受けるネットワークなんて――」
そこで彼は止まる。
画面に、MNEMOSYNEのデータが映る。
新世代GF。
記録固定特化型。
「使える……」
ミナトの目が変わる。
「MNEMOSYNEを中継点にして、SPICA部隊をノード化する。」
「銀河全域のGFをCOSMOSの補助神経にするんだ。」
ソラは笑った。
「いいじゃん。」
「みんなでCOSMOSになる。」
司令官は即断した。
「全GFへ通達。」
「COSMOS計画を第二段階へ移行。」
「銀河全域GFネットワークを形成せよ。」
銀河各地。
SPICA、新世代GF、艦隊重力炉。
すべてが同期を始める。
小さな青い光が、星系から星系へ繋がる。
それはまるで、銀河に神経が通っていくようだった。
VOID-GF NULLが再び現れる。
前よりも速く、強く、COSMOSの動きを学習している。
だが今度のCOSMOSは違った。
ソラ一人ではない。
レイだけでもない。
五機だけでもない。
銀河中のGFが、微かに動きを支える。
NULLの攻撃を、COSMOSは読まなかった。
銀河全体で受け止めた。
そして、返した。
ソラが叫ぶ。
「COSMOS計画、第二段階!」
青い光が銀河に広がる。
「ヒューマン・グラビティ・リンク!!」
COSMOSの重力翼が何倍にも広がる。
その翼は銀河外縁を越え、星々を繋ぎ、消えかけた未来を支えた。
VOID ARCHITECTの侵食が一瞬、止まる。
ミナトが叫ぶ。
「成功!」
「ソラの負荷、分散!」
「COSMOS安定!」
ソラは深く息を吐いた。
「……これなら、行ける。」
レイが静かに言う。
「君一人ではない。」
ソラは笑った。
「うん。」
「それが一番強い。」
COSMOS計画は、兵器計画ではなくなった。
それは人類全体が宇宙と向き合うための、新しい器。
一人の英雄ではなく。
文明そのものが、巨神になる計画。
VOID ARCHITECTが、初めて明確に後退した。
人類はもう、管理されるだけの種ではない。
宇宙に触れ、宇宙を支え、宇宙を選び直す存在へ進化し始めていた。
ソラは前を見る。
「次は、こっちから行くよ。」
COSMOSの目が輝く。
銀河全域の青い光が、一つに集まる。
そして人類は、創造主の領域へ踏み込む準備を整えた。




