第51話「GF量産」
太陽は守られた。
だが、それは勝利ではなかった。
銀河外縁防衛線は押し込まれ、VOID ARCHITECTの影響範囲はさらに内側へ広がっていた。
星が消える。
航路が消える。
記録が消える。
人類は、ひとつの事実を突きつけられていた。
COSMOS一機では、銀河全体を守れない。
銀河防衛機構・緊急戦略会議。
ミナトは巨大スクリーンの前に立っていた。
「COSMOSは強い。」
「でも、同時に一か所しか守れない。」
「VOID ARCHITECTは銀河全域へ干渉している。」
司令官が問う。
「対策は。」
ミナトは一瞬だけ黙った。
そして言った。
「GFを量産します。」
会議室がざわつく。
レイが眉をひそめる。
「量産できるものなのか。」
ミナトは苦い顔で答える。
「完全なGFは無理だ。」
「でも、簡易重力炉を積んだ量産型なら作れる。」
スクリーンに新型機の設計図が映る。
GF-MP “SPICA”
全高28メートル。
性能はNOVAやVEGAには遠く及ばない。
だが、重力干渉ができる。
それだけで意味があった。
ソラは設計図を見つめた。
「これで、みんなが戦える?」
ミナトは頷く。
「危険だけどな。」
「重力炉に適性が低いパイロットが乗れば、意識を削られる。」
ソラの表情が曇る。
「……それでも乗る人がいるんだ。」
司令官が静かに言った。
「いる。」
「すでに志願者は十万人を超えている。」
格納庫群。
そこでは、量産型GFの建造が始まっていた。
工業コロニーが昼夜を問わず稼働し、民間企業も軍需工場も、すべての生産ラインをSPICAへ切り替えた。
戦艦の装甲を剥がし、コロニー外壁を削り、古い艦の炉心を再利用する。
人類は、自分たちの文明そのものを武器へ変えていた。
訓練場。
若いパイロットたちが、初めてSPICAへ乗り込む。
その中には、以前ソラを遠くから見ていた訓練校の生徒たちもいた。
ひとりの少年が、通信越しに言った。
「アマミヤ先輩。」
ソラは驚く。
「え、私?」
少年は緊張した声で続ける。
「僕たちも行きます。」
「先輩だけに、宇宙を背負わせません。」
ソラは言葉に詰まった。
嬉しい。
でも、怖い。
自分のせいで、彼らが戦場へ出る。
そう思ってしまう。
レイが隣に立つ。
「彼らは自分で選んだ。」
ソラは小さく頷く。
「……うん。」
そして少年へ笑いかけた。
「じゃあ、死なないで。」
「命令ですか?」
「ううん。」
ソラは言った。
「約束。」
数日後。
銀河各地に、量産型GF部隊が配備された。
火星圏防衛隊。
木星重力戦団。
土星リング機動隊。
外縁植民地義勇軍。
数千機のSPICAが、星系防衛線に並ぶ。
VOID ARCHITECTの侵食波が、再び銀河を襲う。
だが今度は、各星系に青い光が灯った。
SPICA部隊が重力フィールドを展開する。
弱い。
不安定。
それでも、消えゆく星々を繋ぎ止める。
DENEBが叫ぶ。
「各地の存在削除、遅延!」
「SPICA部隊、効果あり!」
司令室にわずかな希望が戻る。
だが、同時に悲鳴も届く。
「第三SPICA小隊、炉心暴走!」
「パイロット意識混濁!」
「第八防衛線、突破されます!」
量産型は万能ではない。
未熟な機体。
未熟な兵士。
それでも彼らは、宇宙の終わりに向かって立っていた。
ソラはCOSMOSの中で、銀河全域に灯る小さな青い点を見ていた。
「……きれい。」
レイが言う。
「あれが人類の防衛線だ。」
ソラは頷く。
「うん。」
「私たちだけじゃない。」
その瞬間。
VOID ARCHITECTの本体が、さらに深く動いた。
黒い構造体の奥から、新たな個体群が放出される。
今までのヴォイドとは違う。
人型に近い影。
GFに似た形。
DENEBの声が凍る。
「敵新型……確認。」
「形状、人型。」
ミナトが呟く。
「まさか……」
ソラはその影を見て、理解した。
VOID ARCHITECTが、COSMOSを観測し、模倣したのだ。
人類の進化に対し、敵もまた進化する。
黒い人型ヴォイドが、SPICA部隊へ向かって飛び出した。
レイが低く言う。
「量産型GFへの対抗兵器か。」
ソラは操縦桿を握る。
「なら、こっちも負けない。」
COSMOSが前へ出る。
人類はGFを量産した。
だがその瞬間、宇宙の管理者もまた、人類を模倣し始めた。
戦争は、さらに新しい段階へ進む。




