第45話「次の宇宙」
次の宇宙は、すでに用意されていた。
VOID ARCHITECTの内部に。
宇宙の設計図の奥に。
終わりの向こう側に。
ソラは、それを見てしまった。
リセット後に生まれるはずだった新しい宇宙。
そこには星があった。
銀河があった。
生命があった。
だが――
人類はいなかった。
COSMOSの内部空間で、ソラは静かに立っていた。
目の前には、閉じかけた設計図の残光が浮かんでいる。
そこに映っていたのは、VOID ARCHITECTが予定していた未来。
次の宇宙。
管理された新世界。
争いは少ない。
崩壊も遅い。
効率的で、美しい宇宙。
ミナトが呟く。
「……完成度が高すぎる。」
レイが静かに言う。
「だから我々は不要、ということか。」
ソラは小さく笑った。
「ひどいよね。」
その次宇宙では、すべてが最適化されていた。
文明は一定以上発展しない。
宇宙に干渉する知性は生まれない。
終わりに抗う種は存在しない。
完璧な循環。
完璧な管理。
そして。
可能性のない宇宙。
ソラは拳を握った。
「こんなの、きれいな檻だよ。」
VOID ARCHITECTは答えない。
ただ、次の宇宙を見せ続ける。
まるで取引のように。
この宇宙を終わらせれば、次は安定する。
苦しみも、失敗も、反逆もない。
レイが問う。
「揺らいでいるのか。」
ソラは少し黙る。
「うん。」
正直だった。
「だって、きれいなんだもん。」
「誰も苦しまないなら、それも答えなのかなって。」
沈黙。
やがてレイが言った。
「だが、そこに選択はない。」
ソラは目を開く。
「……うん。」
レイの声は静かだった。
「苦しまない世界が正しいとは限らない。」
「間違える自由も、生きることの一部だ。」
ソラは笑った。
「レイ、いいこと言うね。」
「事実を言っただけだ。」
次の宇宙の映像が、ゆっくりと消える。
ソラは前を見る。
「ごめん。」
「その宇宙、私は選ばない。」
VOID ARCHITECTの影が震える。
拒絶。
修正。
確定。
ソラは言う。
「次じゃなくて、今。」
「いつかじゃなくて、ここ。」
COSMOSの光が強まる。
「この宇宙には、まだ続きがある。」
その瞬間。
銀河外縁の空間が裂けた。
VOID ARCHITECTの本体が、ついに現実宇宙へ侵入を開始する。
巨大すぎる輪郭。
銀河の外側を覆う黒い構造体。
その一部が現れただけで、星々の軌道が乱れた。
DENEBが叫ぶ。
「本体出現!」
「質量、測定不能!」
「存在規模……銀河級以上!」
司令官が立ち上がる。
「全艦隊、戦闘配置!」
COSMOSの前に、無数のヴォイドスウォームが展開する。
リヴァイアサン級。
コロッサス級。
リセットノード。
そして未知の上位個体。
まるで、宇宙そのものが人類を拒んでいるようだった。
ソラは深く息を吸う。
「ここまでが真実編。」
「ここから、本当の戦争だね。」
レイが言う。
「勝算は。」
ソラは笑った。
「作る。」
COSMOSが拳を構える。
その背後には、人類艦隊。
数万の光。
小さく、脆く、それでも前を向く文明の火。
司令官の声が銀河全域へ響く。
「全人類へ告ぐ。」
「我々の敵は、宇宙の終わりそのものだ。」
「だが我々は、次の宇宙へ逃げない。」
「この宇宙で、生きる。」
ソラはNOVA核に手を置く。
「前の宇宙のみんな。」
「見てて。」
青い光が燃え上がる。
「私たちは、次じゃない未来を選ぶ。」
VOID ARCHITECTが完全降臨を開始する。
銀河が震える。
星々が悲鳴を上げる。
そして。
人類史上最大の戦争が始まる。
銀河崩壊戦争。




