第38話「人類の起源」
人類は、偶然生まれた種ではなかった。
少なくとも――
宇宙ログは、そう告げていた。
銀河防衛機構・重力解析室。
ソラ、レイ、ミナト、そして司令官は、古代リングから得たデータを見つめていた。
そこには、前宇宙の最後の記録が映されている。
滅びゆく銀河。
崩壊する文明。
そして、最後に残った者たち。
彼らは、自分たちの肉体を残さなかった。
記憶も、文化も、言語も。
ほとんどすべてを捨てた。
ただ一つだけを、次の宇宙へ送り込んだ。
抗う意志。
ミナトが呟く。
「人類の遺伝子に、重力反応性がある理由……」
「これか。」
ソラが画面を見る。
「私だけじゃないんだ。」
レイが頷く。
「程度の差はあっても、人類全体が継承者。」
記録映像の中。
前宇宙の文明は、最後の瞬間に巨大な重力波を放つ。
それは情報でも物質でもない。
可能性の種。
次に生まれる宇宙のどこかで、知性体として発芽するよう設計されたもの。
それが、人類だった。
司令官が静かに言う。
「我々は、前宇宙の遺言か。」
ソラは首を振った。
「遺言じゃない。」
少し笑う。
「続きだよ。」
その言葉に、部屋が静まる。
宇宙ログがさらに深く開く。
映像に、前宇宙の最後の観測者が現れる。
姿は不明瞭だった。
だが、その背後には巨大な人型重力構造体――ORIGIN FRAMEが立っている。
記録音声が流れる。
《次の宇宙に生まれる者たちへ》
《我々は敗北した》
《だが敗北は終わりではない》
《もし君たちがこの記録へ辿り着いたなら》
《君たちは、我々が届かなかった場所へ届く者だ》
ソラの胸が熱くなる。
自分は選ばれたのではない。
託されたのだ。
遠い宇宙の終わりから。
だが次の瞬間、映像が乱れる。
記録の最後に、黒い影が映る。
VOID ARCHITECT。
それは前宇宙の最終防衛線を超え、文明を情報へ分解していく。
そして、ORIGIN FRAMEの核だけが外へ射出される。
次宇宙へ。
NOVAとして。
ミナトが息を呑む。
「NOVAは……」
「前宇宙からの脱出ポッドみたいなものか。」
ソラはNOVAの映像を見る。
「ううん。」
「たぶん、剣だよ。」
レイが問う。
「剣?」
ソラは頷く。
「次の宇宙が、もう一度戦うための。」
そのとき、解析室の照明が揺れる。
警報。
《外縁星系、因果削除確認》
《第三防衛線、消失》
司令官が顔を上げる。
「もう来たか。」
観測官の声が通信に響く。
「VOID ARCHITECTの影響範囲、拡大中!」
「星系単位で存在記録が消えています!」
ソラは立ち上がる。
「時間がない。」
ミナトが言う。
「COSMOS計画はまだ調整中だ。無理に動かせば、五機とも砕ける。」
ソラは笑った。
「じゃあ砕けないようにして。」
ミナトが苦笑する。
「簡単に言うな。」
レイが静かに立つ。
「だが、やるしかない。」
格納庫。
五機のGFが並んでいた。
NOVA。
ORION。
VEGA。
ALTAIR。
DENEB。
その背後で、巨大な円環状の合体中枢が起動を始める。
GF-Σ COSMOS計画。
人類が宇宙外干渉へ届くための、最初の超機。
ソラはNOVAを見上げる。
「私たちは、前の宇宙の続き。」
「だったら。」
操縦席へ向かう。
「ちゃんと続きを書こう。」
遠く、銀河外縁。
黒い空白が広がっていく。
VOID ARCHITECTは、まだ完全には姿を見せていない。
だがその指先だけで、星系が消えていく。
人類の起源が明かされた日。
人類は同時に知った。
自分たちが生まれた理由を。
そして。
自分たちが倒すべき存在を。
ソラは操縦桿を握る。
「NOVA。」
「前の宇宙の分まで、行くよ。」
青い光が静かに応えた。




