第37話「VOID ARCHITECTの存在」
リセットノード崩壊から、六時間。
銀河外縁防衛線は勝利に沸いていなかった。
誰もが理解していた。
あれは終わりではない。
呼び鈴だった。
銀河防衛機構・司令室。
観測スクリーンの中央に、黒い空白が映っていた。
そこには星がない。
光もない。
だが、確かに“何か”がいる。
観測官が震える声で報告する。
「銀河外縁のさらに外側に、超広域重力反応。」
「サイズは?」
「……測定不能です。」
司令官が眉をひそめる。
「測定不能とはどういう意味だ。」
観測官は青ざめたまま答える。
「対象が大きすぎるのではありません。」
「こちらの宇宙に、完全には存在していません。」
沈黙。
ソラは、その黒い空白を見つめていた。
胸の奥が冷たくなる。
「……来た。」
レイが隣で問う。
「分かるのか。」
ソラは頷く。
「うん。」
「向こうが、こっちを見てる。」
ミナトが解析データを表示する。
「宇宙ログと照合した。」
「一致率、九十九・九パーセント。」
一拍置く。
「VOID ARCHITECTだ。」
会議室の空気が凍る。
宇宙を終わらせ、作り直す存在。
ヴォイドスウォームの最上位。
すべてのリセット機構の管理者。
だが画面の中に姿はない。
ただ、黒い空白だけ。
ソラが言う。
「まだ来てない。」
「覗いてるだけ。」
司令官が問う。
「来た場合、どうなる。」
ソラは少し黙る。
そして答えた。
「銀河が、材料になる。」
誰も言葉を返せなかった。
そのとき、宇宙ログが自動再生される。
前宇宙の記録。
VOID ARCHITECTが降臨した瞬間。
銀河が折り畳まれる。
星々が吸収される。
文明が情報へ分解される。
そして、すべてが次の宇宙の種へ変えられていく。
ソラは拳を握った。
「……これが、本当の敵。」
レイが静かに言う。
「倒せるのか。」
ソラは首を振る。
「今のままじゃ無理。」
「NOVAでも、まだ届かない。」
ミナトが言う。
「なら必要なのは何だ。」
ソラは画面を見る。
黒い空白の奥。
そこにある、宇宙の外側。
「こっちから、外へ行く力。」
「宇宙の中の兵器じゃなくて――」
「宇宙の外側に届く機体。」
司令官が低く言った。
「それが、次の計画か。」
ミナトはすでに理解していた。
「GF-Σ計画を前倒しする。」
レイが顔を上げる。
「合体機構か。」
ミナトは頷く。
「五機のGFを一つの重力中枢にする。」
「単機では届かない領域へ、無理やり穴を開ける。」
ソラが呟く。
「COSMOS……」
その瞬間。
黒い空白がわずかに動いた。
全観測機器が一斉に悲鳴を上げる。
《警告》
《因果干渉》
《観測記録改変》
スクリーンの星図が書き換わる。
銀河外縁の星系が、いくつか消える。
いや。
消えたことになった。
観測官が叫ぶ。
「星系データが消失!」
「記録も、航路も、住民登録も――」
「存在そのものが削除されています!」
ソラが立ち上がる。
「もう始めてる。」
レイが問う。
「攻撃か。」
ソラは首を振る。
「違う。」
「準備運動。」
黒い空白の奥で。
何かが、輪郭を持とうとしていた。
ソラはNOVAの方角を見る。
「急がないと。」
「向こうが完全に来たら、銀河ごと終わる。」
司令官が命じる。
「全GF整備班、COSMOS計画を最優先で進行。」
「全艦隊は銀河外縁へ集結。」
「人類はこれより――」
一瞬、声が重くなる。
「VOID ARCHITECTとの全面戦争に入る。」
ソラは静かに頷いた。
「行こう、NOVA。」
まだ届かない。
でも。
届かせる。
宇宙の外側から、設計者が近づいている。
人類は初めて。
創造主に逆らう準備を始めた。




