第36話「リセット機構」
リセットノード。
それはヴォイドスウォームの王ではなかった。
司令官でもない。
もっと冷たいもの。
宇宙を終わらせるための装置。
銀河外縁防衛線。
黒い巨大構造体が、ゆっくりと展開する。
その姿は、生物というより巨大な天文現象に近かった。
無数の輪。
折り畳まれた空間。
中心に浮かぶ赤い核。
DENEBが叫ぶ。
「敵重力波、銀河全域に拡散!」
「命令信号です!」
ミナトが解析画面を見つめる。
「ヴォイド群を再起動してる……!」
停止しかけていた群れが、再び動き出す。
リヴァイアサン級。
コロッサス級。
無数のドローン。
そのすべてが、NOVAへ向いた。
レイがVEGAを前に出す。
「ソラを守る。」
ORIONが砲撃姿勢に入る。
「ノード核を狙う。」
ALTAIRが重力盾を展開する。
「防御線構築。」
DENEBが叫ぶ。
「命令波を妨害する!」
そして。
NOVA。
ソラは、リセットノードを見つめていた。
「……分かる。」
「これ、ただの敵じゃない。」
目を細める。
「終わりを始めるスイッチだ。」
リセットノードの中心が光る。
次の瞬間。
宇宙が、ほんのわずかに“巻き戻った”。
破壊されたヴォイドが復元する。
砕けた戦艦の残骸が、再び爆発前の形へ戻ろうとする。
DENEBが悲鳴を上げる。
「時間逆行反応!?」
「局所時間が巻き戻されています!」
ソラは歯を食いしばる。
「そんなのあり?」
リセットノードは答えない。
ただ、機能する。
終わりへ向かうために。
レイが突撃する。
VEGAの刃が赤い光を引く。
「核を切る。」
だが、届かない。
空間が巻き戻り、VEGAの位置が突撃前へ戻される。
レイが息を呑む。
「……行動がなかったことにされた。」
ORIONの砲撃も同じ。
発射されたはずの光が、砲口へ戻る。
ALTAIRの盾も、展開前へ戻される。
戦場全体が、敵に都合よく修正されていく。
ソラは静かに呟いた。
「なるほど。」
「終わりに向かう流れ以外、全部戻すんだ。」
NOVAの光が深くなる。
「だったら――」
操縦桿を握る。
「戻せないものを使う。」
ミナトが叫ぶ。
「何をする気だ!?」
ソラは笑った。
「記憶。」
一瞬、全員が沈黙する。
ソラは続ける。
「起きたことは戻せても。」
「覚えてることは、戻せない。」
NOVAが両腕を広げる。
重力波が、戦場全体へ広がる。
それは攻撃ではない。
記録。
人類が観測した事実。
戦ったこと。
傷ついたこと。
抗ったこと。
そのすべてを宇宙へ刻む。
リセットノードが揺らいだ。
時間逆行が乱れる。
DENEBが叫ぶ。
「巻き戻し、失敗!」
「戦場の記録が固定されています!」
レイが即座に動く。
「今だ。」
VEGAが再突撃する。
今度は戻されない。
ORIONの砲撃が走る。
ALTAIRの盾が前線を押し上げる。
DENEBが命令波を遮断する。
ソラが叫ぶ。
「NOVA!」
青い光が一点に集まる。
「リセットなんかさせない!」
NOVAの拳が、リセットノードの核へ届く。
重力が炸裂する。
赤い核がひび割れる。
だが。
砕けた核の奥から、さらに強い信号が放たれた。
それは命令ではない。
通報。
DENEBが青ざめる。
「今の……外へ飛びました。」
レイが問う。
「どこへ。」
DENEBは震える声で言う。
「分かりません。」
「でも……銀河の外です。」
ソラは、宇宙の奥を見た。
そこに、まだ姿の見えない巨大な気配がある。
「……呼んだんだ。」
小さく呟く。
「本体を。」
リセットノードが崩壊する。
銀河外縁防衛線に、一時の静寂が戻る。
だがそれは勝利ではなかった。
始まりだった。
宇宙の外側で。
VOID ARCHITECTが、人類を正式に認識した。




