第35話「宇宙の寿命」
銀河外縁防衛線。
そこは、星々の薄い海だった。
文明圏から最も遠く、人類の光がまだ届ききっていない宙域。だが今、その暗闇は無数の黒い影で満たされていた。
ヴォイドスウォーム。
宇宙の終わりを運ぶ群れ。
前線艦隊が一斉に砲撃を開始する。
光の雨が宇宙を走る。
だが敵の数は減らない。
砕かれた個体の破片が歪み、再び小型の群れへ変わる。
観測官が叫ぶ。
「敵、自己再構成!」
「撃破しても再集合します!」
司令官が低く言う。
「消耗戦では勝てないか。」
その頃、最前線。
NOVAは群れの中央を突き抜けていた。
青い重力波が広がり、敵の構造をほどいていく。
ソラは息を整えながら言う。
「やっぱり、ただ壊してもダメだ。」
レイがVEGAで接近する。
「ならどうする。」
ソラは目を細める。
「役割を外す。」
「ヴォイドは命令で動いてる。なら、その命令に干渉する。」
ミナトの通信が割り込む。
「簡単に言うなよ。それは敵の存在理由を書き換えるってことだぞ。」
ソラは笑った。
「うん。だからNOVAでやる。」
その瞬間。
宇宙ログが再び開いた。
ソラの視界に、長い時間が流れ込む。
宇宙の誕生。
膨張。
星の形成。
銀河の衝突。
そして、遠い未来。
すべての恒星が燃え尽きる。
ブラックホールさえ蒸発し、光も熱も意味を失う。
完全な静寂。
宇宙の寿命。
ソラはその光景を見て、言葉を失った。
「……本当に、終わるんだ。」
それは悲劇ではなかった。
自然な流れ。
避けられない結末。
だからヴォイドは存在する。
終わりを恐れるのではなく、終わりを管理するために。
だが。
ソラは、拳を握った。
「でも、まだ今じゃない。」
NOVAの重力炉が静かに光る。
「勝手に終わりって決めないで。」
NOVAが両腕を広げる。
青い波紋が広がる。
攻撃ではない。
命令への干渉。
ヴォイドスウォームの群れが一瞬、動きを止める。
DENEBが叫ぶ。
「敵群れ、停止!」
「重力命令系に干渉成功!」
レイが言う。
「続けろ、ソラ。」
だが次の瞬間。
銀河外縁の闇が裂けた。
巨大な影が現れる。
リヴァイアサン級でも、コロッサス級でもない。
さらに巨大な存在。
観測AIが告げる。
《上位統制個体確認》
《クラス:リセットノード》
ソラは顔を上げる。
「……命令の中継点。」
リセットノードの中心が赤く光る。
停止していたヴォイド群が、再び動き出す。
しかも今度は、明確にNOVAを狙っていた。
レイが叫ぶ。
「ソラ、下がれ!」
ソラは笑う。
「無理。」
「向こうも分かってる。」
NOVAが前に出る。
「私を止めないと、ヴォイドは変わっちゃうから。」
リセットノードが巨大な重力波を放つ。
宇宙が軋む。
ソラは操縦桿を握る。
「いいよ。」
「寿命があるなら、延ばす。」
NOVAの光が深くなる。
「終わりが決まってるなら――」
「その先を作る。」
青い重力と黒い命令が衝突する。
銀河外縁に、新しい戦場が開かれた。
宇宙の寿命をめぐる戦い。
それは、人類が初めて挑む――
終わりへの反逆だった。




