第34話「ヴォイドの役割」
ヴォイドは、敵ではなかった。
少なくとも――
宇宙にとっては。
銀河防衛機構・最高会議室。
巨大スクリーンには、宇宙ログから抽出された映像が投影されていた。
生まれる宇宙。
広がる星々。
繁栄する文明。
そして、やがて訪れる終焉。
すべての星が冷え、すべての運動が止まり、宇宙が完全な静寂へ向かう。
その直前に現れる黒い群れ。
ヴォイドスウォーム。
司令官が低く言う。
「彼らは侵略者ではない、ということか。」
ソラは頷いた。
「うん。」
「宇宙が完全に死ぬ前に、全部回収してる。」
ミナトが眉をひそめる。
「回収?」
ソラは画面を見る。
「エネルギーも、質量も、情報も。」
「全部集めて、次の宇宙を作る材料にする。」
沈黙。
誰かが呟く。
「つまり……掃除屋か。」
レイが静かに訂正する。
「墓守だ。」
ソラは小さく頷いた。
「たぶん、どっちも。」
映像が進む。
ヴォイドスウォームは無差別に破壊しているようで、実際には宇宙の崩壊点を修復していた。
恒星の寿命。
ブラックホールの暴走。
空間の亀裂。
文明の過剰な干渉。
すべてを“正常な終わり”へ戻す。
それがヴォイドの役割だった。
だが。
今回だけは違う。
人類が宇宙に干渉した。
ソラが“終わり”以外の選択肢を作った。
その瞬間、ヴォイドにとって人類は――
修正対象になった。
司令官が問う。
「ならば和平は可能か?」
会議室が静まり返る。
ソラは少し考えた。
「たぶん、無理。」
「ヴォイドは命令で動いてる。」
「本当に話せる相手は、その上。」
ミナトが呟く。
「VOID ARCHITECT……」
ソラは頷く。
「宇宙そのものの設計者。」
「そこまで行かないと、止まらない。」
そのとき。
警報が鳴った。
《銀河外縁防衛線、接敵》
《ヴォイドスウォーム群、交戦開始》
スクリーンが切り替わる。
無数の黒い影。
星の海を埋め尽くすほどの群れ。
前線艦隊が砲撃を開始する。
だが、敵は止まらない。
観測官が叫ぶ。
「敵数、推定不能!」
「リヴァイアサン級、複数確認!」
「コロッサス級もいます!」
司令官が立ち上がる。
「全GF部隊を出せ。」
「銀河防衛戦、開始だ。」
格納庫。
NOVAの前に立つソラ。
機体は変わっていた。
装甲の青い光は、以前より深く、静かに脈動している。
まるで、生きているように。
ミナトが言う。
「宇宙ログが入ってから、NOVAの構造が書き換わってる。」
ソラは機体を見上げる。
「進化してる?」
「たぶん。」
ミナトは苦笑した。
「もう“修理”って言葉が通じない。」
レイが隣に立つ。
「準備は。」
ソラは笑った。
「いつでも。」
レイは短く言う。
「今度の敵は数が違う。」
「分かってる。」
「勝てるのか。」
ソラは少しだけ黙った。
そして言った。
「勝つんじゃない。」
「越える。」
出撃ゲートが開く。
宇宙の闇が広がる。
遠くでは、すでに銀河外縁が黒く染まり始めていた。
司令官の声が響く。
「GF部隊、出撃。」
ソラは操縦桿を握る。
「NOVA、行くよ。」
青い光が応える。
その瞬間。
NOVAは宇宙へ飛び出した。
かつてない戦争が始まる。
敵は悪ではない。
だが止めなければ、すべてが終わる。
宇宙の役割と、人類の意志。
その二つが、銀河の果てで衝突する。




