第15話「余波」
戦場は、静まり返っていた。
ベヒモス級が消滅した宙域。
そこには、破壊の痕跡すらほとんど残っていない。
ただ――
何もない空間。
まるで最初から何も存在していなかったかのような、異様な“空白”。
DENEBのオペレーターが震える声で言う。
「重力値……ゼロに近い……?」
「そんなこと……ありえない……」
ORIONのパイロットも呟く。
「敵の質量が……消えた?」
レイは無言で、その中心を見つめていた。
そして視線を移す。
そこに浮かぶのは――
GF-01 NOVA。
完全に沈黙した機体。
ソラの反応もない。
レイが通信を送る。
「ソラ、応答しろ。」
返事はない。
「……ソラ!」
そのとき、ALTAIRが動く。
「機体を回収する。」
巨大な腕でNOVAをゆっくりと掴む。
重力シールドで保護しながら、基地へと帰投を開始する。
司令室。
誰もがモニターを見つめていた。
沈黙の中、司令官が言う。
「戦闘は終了した。」
一拍置く。
「……だが。」
その視線は、記録映像に向けられている。
NOVAがベヒモス級を“潰した”瞬間。
「これは……」
誰かが呟く。
「戦闘ではない。」
「現象操作だ。」
その言葉に、誰も否定できなかった。
――数時間後。
医療区画。
白い部屋。
ベッドの上で、ソラは静かに眠っていた。
モニターには安定した波形が表示されている。
その横で、ミナトが腕を組んでいた。
「……無茶しすぎだよ。」
小さくため息をつく。
そのとき、ドアが開く。
レイが入ってきた。
無言でソラを見る。
ミナトが言う。
「命に別状はない。」
「ただ――」
少し言葉を選ぶ。
「脳波がちょっと変なんだよね。」
レイが眉をひそめる。
「変?」
ミナトがモニターを指す。
「普通、人間の脳はこんな波形にならない。」
画面には、複雑な波が表示されている。
それはどこか――
重力波のパターンに似ていた。
レイが静かに言う。
「……同調しているのか。」
「NOVAと。」
ミナトが答える。
「いや、それだけじゃない。」
「もっと広い。」
少し間を置く。
「たぶんこれ――」
「宇宙と繋がりかけてる。」
沈黙。
レイはソラを見る。
「……危険だな。」
ミナトが苦笑する。
「でもさ。」
「それがなかったら、あの勝ちはなかった。」
そのとき。
ソラの指が、わずかに動いた。
二人が振り向く。
ゆっくりと目が開く。
「……ん。」
ソラが小さく声を出す。
「ここ……どこ?」
ミナトが笑う。
「病室だよ、英雄さん。」
ソラが顔をしかめる。
「やめてそれ……」
レイが一歩近づく。
「覚えているか。」
ソラは少し考える。
「……うん。」
「なんか、全部見えた。」
「宇宙の重力が。」
その言葉に、二人は黙る。
ソラは天井を見ながら言った。
「でもさ。」
「ちょっと怖かった。」
珍しく弱い声だった。
「戻れなくなるかと思った。」
レイが静かに言う。
「戻ってきた。」
ソラは小さく笑った。
「うん。」
少し間が空く。
「……でも。」
その目が真剣になる。
「たぶん、あれ。」
「まだ続きがある。」
ミナトが首をかしげる。
「続き?」
ソラはゆっくり言った。
「NOVA。」
「まだ本気じゃない。」
その言葉が、静かに部屋に落ちる。
そして同時に。
遠く宇宙の深部で――
新たな“何か”が、目を覚まそうとしていた。




