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異世界召喚は未成年者略取ですよね?  作者: 門松一里
2.逃走

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2−1.聖泉

2−1.聖泉


「燃やしますか?」

 緑髪のジョシュアが物騒なことを言った。

「どこの蛮族だよ。これだから異世界人は。私は文明人だ。――私がいた世界、特に日本じゃ放火は重罪だ」

 香西鑑が笑ってみせた。

「やるなら、水だ」

「どこが文明人シヴィライズド・パーソンなんですか!」

 水なら器物損壊で、三年以下の拘禁刑だから執行猶予も考えられる。

「城の水源は?」

「地下に聖泉セイクリッド・ウェルがあります」

「では、それを利用しよう。転移できるか?」

「……本当にコレ、大丈夫でしょうか?」

 空中に魔法式を描きながら、ジョシュアが確認した。

「多少ズレても、泉の中だろう? 水があれば酸素を生成できる。教えただろう?」

「それはそうですが……自分で実験することになるとは」トホホ。

「科学の黎明れいめいは自らひらくべきだ」

「人体実験で、ですか? 異世界の学者はどれだけ変人なんですか、まったく……」

 ジョシュアが描き終えた。

「……じゃあ、行きますよ」

 香西にとっては見慣れた三次方程式だが、バビロニア数学の応用にとどまるこの世界の人間には高度すぎた。

 繰り返すが〝この世界の人間には高等すぎた〟のだ。

「ぶはっ!」

 見事、泉の中に着水(?)した。

 二人分の質量を押しのけた水は、祭壇を水浸しにした。

「きゃー!」

 聖泉の巫女みこたちが後ずさった。扉の左右で待機していた衛兵が駆け寄った。

「――〝動くな〟」

 水面から顔を出した香西が命じた。

 巫女三人も衛兵両名も凍りついたように動かなくなった。

「〝魔術語〟が使えるんですか? あなたの世界では言霊ことだまというそうですが」

「よく知っているな」

「どうしてそれを使わなかったんです?」

「軍事裁判でか? 貴族はそれなりに対応しているはずだからな。――君のように」

「気づいていたんですね?」

 ジョシュアが緑髪をかき上げた。青緑の耳栓をしていた。

「ああ。どこの世界に、異端者のおりに美少年を入れるかよ。スパイに決まっている」

 香西が紅玉の首輪を、倒れている巫女の一人にかけた。

「君は、私の世界の文化――異世界の禁忌きんきにも精通している。つまり、この国ではかなり高い地位にあった。それが牢にいるなら、失脚したと考えるべきだ。おおかた復爵を条件に、私の従者になることを命じられたんだろう。――立て」

 巫女を立たせる。

「名前は?」

 巫女が視線をそらした。

「こっちの話は無視ですか?」

「〝名前を言え〟」

「――わ、わたくしの……名前は……」

「人質は、文明的シヴィライズドとは言えないのでは?」

超法規的措置ちょうほうきてきそちだ。――それとも、ジョシュア・レヴィ=チヴィタ、君が従うかい?」

「どうしてそれを?」

 ジョシュアがにらんだ。

「『へい詭道きどうなり』――ハッタリだよ。――レヴィと同じ髪色だから」

「いちおう本家の三男だが、ミスってね。……考えさせてくれないか、マスター?」

ジョシュアが願った。

「時間をやる。――禁書庫の資料を読んでおいてくれ」

「……分かった」

 空中にさきほどの魔術式を描くと、末尾を変更して、消えた。

「さて、皆さん。私が誰か知っているかい?」

 五人とも首を横に振った。

「名前は言わなくてもいい。ただ、君たちの魔法を使わせてもらう。――おっと〝動くな〟」

 衛兵の一人が魔法の腕輪を起動しようとして、手を止めた。

「これは……なるほど。こうか?」

 腕輪の宝珠の魔術式を参考に、宙に描くがすぐに消えた。

 首輪をした巫女の手を借りて、描き直す。

「砂? ああ、眠らせるのか。ちょうどいい」

 描いた魔術式に、香西が巫女の魔力を流し込んだ。

 他の四人が眠ってしまった。

流石さすがは王城の衛兵だ。装備は一級品だな。他には……これは何をするものだ?」

 木製の横笛だった。

「……」

「答えろ」

「……」

 香西が笛に触れた。

 魔術式が浮かび上がった。

「シルフィード? ああ、風の精霊か。通信装置? 起動しているな……」

「……すぐに……捕まる……だろう」

 巫女が指摘した。

「それは不可能だな。君の名は? ああ、隷属れいぞくさせるつもりはない」

「……協力には……応じない……わたくしは……誇りある聖泉の巫女」

「じゃあ、セイクリッドと名付けよう。略してセイだな。ひじりもセイと読むし。セイ、扉を氷結しろ」

「……誰が……あなたなどに……」

 抵抗するセイだったが、香西が指を掴むと魔術式を描いた。セイの首輪の宝珠があかく光る。

 術式が起動し、分厚い氷の柱が組み合わさっていく。

「……何を……したのだ?」

「見て分からないものは、聞いても分からない。――いいぞ、動いても」

「ぐはっ!」

 セイが倒れそうになりながら、衛兵の長剣を取って片手で香西に斬りかかった。

「はっ!」

 見事な逆袈裟ぎゃくけさ斬りだった。

(よし!)

 手応えに、セイが笑みを見せた。




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