1−3.虜囚
1−3.虜囚
地下牢から緑髪緑眼の美しい少年――ジョシュアが見上げていた。
「旦那、竜騎兵ですよ」
「……本当に異世界だな」
白墨を手にした香西鑑が目を凝らした。
「蜥蜴が飛んでやがる。……それにしても営利目的略取が、異世界召喚による少女の魔王討伐とはな。何か他の手を考えるか……もしかして、あの母親……いや、せめて私も魔法が使えれば……」
香西がチョークを落とすと、横になった。
「ああ、また眠っちゃった」
ジョシュアが香西の包帯を交換した。
壁には、魔術式が描かれていた。
*
香西の額から、血が流れ落ちた。
(……いや、違う。あの時の衝突で……衝突?)
香西の脳裏に、女の笑う顔が再生された。
(トラック……光! 見えない!)
「大丈夫ですか?」
紅顔の美少年が声をかけた。
「ここは? ……地下牢か。君は?」
――違う。これは現実じゃない。――
*
香西が目覚めた。
無意識に頭の傷を確かめようと手を挙げると、両手が拘束されていた。
(石の手錠……セラミック?)
「目覚めたようね」白衣の女性が声をかけた。「――私はダランベール王国ドュ=ダランベール公爵が第七子にしてパンルヴェ子爵、宮廷魔法使いのハンナ・ドュ=ダランベール・パンルヴェ。救国総省救国部統括官よ。――正式な呼びかけは『卿』だけれど、ミユキからはハンナと呼ばれている。――あなたのお名前は?」
(女医? 王国と同じ家名の公爵なら王族――王女か。――つまり、審問官か?)
香西が目を瞑った。
(ミユキ? ああ、菊川美幸か)
近視なので、ぼんやりとしか認識できないが、ハンナの両脇に武官が二名立っていた。
状況から考えて虜囚だと推察された。
「美幸と高村は?」
目を閉じたまま、質問した。
「それに答えたら、お名前を聞かせてくれるのかしら? ミスター?」
「拘束を解いてくれ、ハンナ」目を開いた香西が、ハンナの目を見た。「暴力による解決は好きじゃない」
「そう……」
ハンナが、美麗な首輪を取り出した。中央にルビーに似た輝きを持つ宝珠が埋め込まれている。
「隷属か?」
「……」
それには答えず、ハンナが両手を、香西の首に回した。
ハンナの吐息がかかった。
カチッと首輪の起動音がした。
ハンナが手錠の錠に指を当てると、カチャと解除された。
「……(指紋認証ではないな)」
「魔法よ。――ミスター?」
香西の疑問を察したハンナが答えた。
「香西鑑だ」
「コウザイ・アキラ?」
「香西が氏で、鑑が名前だ」
「アキラ・コウザイ」
ハンナが宝石に語りかけた。赫く光る。
「あなたも家名があるのね? アキラ?」
「……」
「どうしたの?」
宝石の光が一瞬、揺らいだ。
「……私には使えないようだ。――これは、逆らうと首が締まるのか? それとも、爆発する?」
「爆発はしないわ。首を斬り落とす」ハンナが二指で首を刎ねる所作をした。「――異世界人で、魔法が使えるのは勇者とその従者だけ。あなたがどうして光の門を通過できたのか不思議だけれど」
「車は?」
「ああ、あの鉄の車の力で強引にこじ開けたのね。なるほど……」
「眼鏡が欲しい」
目を細めた香西が要求した。
「それには許可が要るわ」
「卿――あなたなら、どうとでもできるだろう? プリンセス・ハンナ」
「いろいろ柵があるのよ、アキラ。――アキラと呼んでも?」
「親しい女性からは別の名前で呼ばれている」
「何という名前なの?」
「コレを外してくれたら教えるよ」
ハンナが笑みを返した。
*
「それで何と呼べばいいんですか?」
少年が質問した。
「(緑の瞳)……君は?」
――そう、この時に名前を聞いたんだ。――
――ジョシュア……。――
――だったら、さっきの姫君は……。――
*
「気づいたか?」
事務室で、ハンナが声をかけた。
(……現実だな。取調べの続きだ……)
「私が、誰だか分かるか?」
「美人は覚えている。――プリンセス・ハンナ」
「あなたの名前は?」
「香西鑑」
「コウザイ・アキラ。あなたに、救国裁判の判決を申し渡す」
救国総省救国部統括官は、審理官も兼ねているらしい。
(まるで軍事裁判だな……)
香西がぼんやりそう考えていたが、正しく軍法会議だった。陪審員はいない。
判決文を読んだ。
「拘禁十五年? バカか?」
「……また不敬罪に問われたいのか?」
「では、聞かなかったことに」
「どうして協力しない?」
「子供を死地に送る助けはできない」
香西が静かに述べた。
「ヒーローガーディアン・タカムラは賛同している」
「警察官だからね。統治下の行政官は従うさ」
敗戦国の軍隊は占領国によって解散させられるが、末端の行政官(警察官や消防士)は、統治のためにそのまま使われる。
「処刑することもできるのだよ?」
「脅迫? 冗談じゃない。子供を戦場に送ることはできない」
「平行線だな。――連れて行け」
「一つ、いいか?」
「何だ?」
「地獄に堕ちろ」
ハンナが溜息をつき、二指を動かした。
次の瞬間、武官の剣が香西の両目を斬り裂いた。




