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第28話 朝顔
川面を渡る風が、港町に夏の終わりの気配を運んでくる頃。
灯は商店街を抜ける。橋を渡る。朝倉活版印刷所は、今も変わらない場所にあった。少し色の褪せた看板。木の扉。窓の向こうに見える活字棚。灯は立ち止まる。小さく息を吐いて、扉を開いた。
ガランガラン。
大きなベルの音が響く。
店の奥から、ガッチャン、と重い音が聞こえた。軽く、鋭い足音が響く。
湊が暖簾をくぐり、顔を上げた。灯を見る。一瞬だけ驚いた顔をして、それから少し目を細める。
灯は何も言わず、鞄から二枚の紙を取り出した。カウンターへ静かに置く。一枚は、カフェ風待ちのショップカード。カフェオレの確認はとってある。もう一枚は依頼書。活版名刺、百枚。
「前の版は、使えないかもしれません」
湊は灯を見て、手元に目を落とした。依頼書。ショップカード。もう一度、依頼書。湊はそれを見つめ、最後に肩書きの欄で目を止めた。それから依頼書を、静かに机へ置いた。
「相変わらず急だな」
灯は笑った。
「断らないって、聞いたんですけど」
奥で印刷機が動き出す。
湊が灯を見る。
窓辺の朝顔が、風に揺れた。




