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第26話 餞
出発の日は、よく晴れていた。
昼過ぎの印刷所は静かだった。灯は机の上を片付けていた。筆記用具、メモ帳、いつの間にか増えていた紙。少しずつ鞄へしまっていく。古時計が鳴る。誠一は帳簿を見ていた。湊は作業台にいる。いつもと変わらない午後だった。
「灯」
呼ばれて顔を上げる。湊が立っていた。手には小さな紙箱。湊は箱を差し出した。
「これ」
灯は受け取り、箱を開ける。中には名刺が入っていた。厚い紙。活版の凹み。指先で触れると、そこに自分の名前があった。
灯は何も言わない。名刺を見る。それからゆっくり顔を上げ、湊を見た。湊はいつもの顔だった。
「使うだろ」
灯はもう一度名刺を見る。活版の凹みを指でなぞる。それから胸元へ引き寄せた。両手で包み込む。
誠一が小さく笑う。窓から風が入り、紙の端が揺れた。
灯は名刺を鞄へしまう。それから机の上の湯呑みへ手を伸ばす。玄米茶は少し冷めていた。最後の一口を飲み干す。湯呑みを置き、灯は立ち上がった。




