表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

貴方の知る私は、記録の外におります— 王子の婚約解消以後、私は物語の舞台を降りました

 王都の夜会で、王子は完璧な所作で言った。「婚約を解消する」。ざわめく会場。だが彼女——アーデルハイトは扇を閉じ、静かに返す。「既に“婚約者”欄は空白です。あなたの署名は、有効期限を失っています」。
 彼女の正体は王立記録管理局(レジストリ)の査定官。功績・寄付・推挙・婚姻の原本に触れる、“前提の番人”だ。
 報復は単純だ。嘘を暴かない。手順を戻すだけ。王子の派閥が積み上げた“うっかり”の便宜——推薦状の複製、匿名寄付の紐付け、試験監督の身内——を、すべて原本主義に差し戻す。誰も名指しで責めない。制度の光だけを当てる。
 結果、派閥は誰にもバレずに困る。回らない会議、成立しない予算、届かない花束。アーデルハイトは「私怨は書類にしません」と笑い、新しい“身分”を作る——「匿名の私」。
 一方、王子は気づく。彼が恋だと思っていたものは、アーデルハイトの段取りという愛の形だったことに。遅すぎる後悔。
 やがて王都は“噂の王”から“記録の王”へ。公開と期限が、寛容と美談の代わりに置かれる。
 最後の夜、アーデルハイトは自分の履歴を一行だけ残す。「私は私を、記録に残さない」。静かな終幕と、長い余白。——貴方の知る私はもういない。けれど、世界は少しだけ正確になった。

アーデルハイト・フロイライン:記録管理局・査定官。一次資料と期限に厳しい。“感情は私物、制度は公共”が信条。

レオンハルト王子:所作は完璧、段取りは他人任せ。婚約破棄で“前提”が消え、空回り。

ミレーユ:王子の新しい恋人と噂される令嬢。悪意ではなく物語に寄せられがち。

グリム課長:記録管理局の上司。乾いたユーモアでアーデルを支える。

司書騎士ノア:王立図書塔の守番。剣より目録。静かな同志。

ベアト商会長:匿名寄付の紐付けで得をしてきた男。利口で、最後は掌返しが早い。

宰相補佐ギーゼル:前提の利権を守る人。敵役だが理屈は通すタイプ。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ