「朝日と渡し舟と、大物の丁稚」
西浦の旅籠で夜を明かした藤兵衛一行は、 日の出とともに起床した。
朝日が海からすっと昇り、 湯気のように淡い光が町を包む。
「ありがたいのう……」 と、藤兵衛が手を合わせると、
「今日も良い一日になりそうですな」 と、権兵衛。
「お腹すきました!」 と、定吉はすでに朝餉のことで頭がいっぱいだった。
朝食を済ませると、 朝一番の乗合馬車に乗り、竹島に最も近い海岸へ向かう。
海沿いの平坦な道を北へ、そして東へ。 潮の香りが馬車の窓から入り込み、 半刻ほどで目的地に到着した。
海岸に降り立つと、 すぐ目の前に竹島がぽつんと浮かんでいた。
「……なんとなく、江の島を思い出すのう」 と、藤兵衛が呟く。
だが、江の島と違って——
「橋が……ないのう」
どう渡るのかと考えていると、 権兵衛と定吉が息を弾ませて戻ってきた。
「若旦那、渡し舟がありましたぞ!」
「乗れますよ、すぐ!」
「おお、助かった」
小型の舟に乗り込むと、 浅瀬とはいえ波で舟が揺れる。
「……む、むぅ……」 と、藤兵衛は舟べりを握りしめ、
「なかなか……揺れますな……」 と、権兵衛も顔が引きつっている。
一方、定吉はというと——
「わぁぁ!揺れる!楽しい!!」
舟の揺れをまるで遊びのように楽しんでいた。
(……こやつ、大物だな) と、年長組の二人は同時に思った。
ほんの短い距離のはずなのに、 藤兵衛と権兵衛には永遠のように長く感じられた。
舟が砂地にこつんと触れた瞬間、 藤兵衛は深く息を吐いた。
「……生き返るのう……」
「大地のありがたさが身に染みますな……」 と、権兵衛も足を踏みしめる。
「えっ、もう着いちゃったんですか?残念……」
定吉は本気で名残惜しそうだった。
「……さて、ここからが今日の本番じゃ」
藤兵衛は気合を入れ、 八百富神社への参道へと歩き出した。
海風が、これからの“開運と縁結び”の島巡りを そっと後押ししているようだった。




