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東海道中珍栗毛  作者: なごやかたろう
八百富の祈りと赤ら顔の奇跡

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68/70

「朝日と渡し舟と、大物の丁稚」

西浦の旅籠で夜を明かした藤兵衛一行は、 日の出とともに起床した。

朝日が海からすっと昇り、 湯気のように淡い光が町を包む。


「ありがたいのう……」 と、藤兵衛が手を合わせると、

「今日も良い一日になりそうですな」 と、権兵衛。

「お腹すきました!」 と、定吉はすでに朝餉のことで頭がいっぱいだった。


朝食を済ませると、 朝一番の乗合馬車に乗り、竹島に最も近い海岸へ向かう。

海沿いの平坦な道を北へ、そして東へ。 潮の香りが馬車の窓から入り込み、 半刻ほどで目的地に到着した。



海岸に降り立つと、 すぐ目の前に竹島がぽつんと浮かんでいた。

「……なんとなく、江の島を思い出すのう」 と、藤兵衛が呟く。

だが、江の島と違って——

「橋が……ないのう」

どう渡るのかと考えていると、 権兵衛と定吉が息を弾ませて戻ってきた。

「若旦那、渡し舟がありましたぞ!」

「乗れますよ、すぐ!」

「おお、助かった」



小型の舟に乗り込むと、 浅瀬とはいえ波で舟が揺れる。

「……む、むぅ……」 と、藤兵衛は舟べりを握りしめ、

「なかなか……揺れますな……」 と、権兵衛も顔が引きつっている。

一方、定吉はというと——

「わぁぁ!揺れる!楽しい!!」

舟の揺れをまるで遊びのように楽しんでいた。

(……こやつ、大物だな) と、年長組の二人は同時に思った。

ほんの短い距離のはずなのに、 藤兵衛と権兵衛には永遠のように長く感じられた。



舟が砂地にこつんと触れた瞬間、 藤兵衛は深く息を吐いた。

「……生き返るのう……」

「大地のありがたさが身に染みますな……」 と、権兵衛も足を踏みしめる。

「えっ、もう着いちゃったんですか?残念……」

定吉は本気で名残惜しそうだった。

「……さて、ここからが今日の本番じゃ」


藤兵衛は気合を入れ、 八百富神社やおとみじんじゃへの参道へと歩き出した。

海風が、これからの“開運と縁結び”の島巡りを そっと後押ししているようだった。

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