「夕日と湯と、べっぴん料理」
西浦に到着した藤兵衛一行は、 まずは温泉付きの旅籠を探すことにした。
「このあたりの名物料理も味わいたいのう」 と、藤兵衛が言えば、
「若旦那、こちらの旅籠は“地魚料理が自慢”と書いてありますぞ」 と、権兵衛が看板を指さす。
「決まりじゃ!」 と、藤兵衛は即決。 三人はその旅籠に泊まることにした。
荷物を置くと、早速温泉へ。
湯はやわらかく、 肩まで沈めると、じんわりと疲れが溶けていく。
「……ふぅ……これは極楽じゃ……」 と、藤兵衛が目を細める。
「良い湯ですなぁ」 と、権兵衛も満足げ。
「ぼく、昨日の熱湯より好きです!」 と、定吉は嬉しそうにぷかぷかしていた。
しばらく浸かっていると、 湯殿の向こうに海と夕日が広がった。
「うむ、絶景かな……」 と、藤兵衛がぽつり。
「ほんとに良い景色ですな」 と、権兵衛。
「夕日がきれいですねぇ」 と、定吉。
三人はしばし、湯と夕日に身を委ねた。
そろそろ上がろうと湯から出たとき、 藤兵衛が腕をさすりながら言った。
「……おお? 肌がすべすべになったような……」
「確かに、湯の成分が効いておりますな」 と、権兵衛も頷く。
「え~、そうですか? ぼくはあんまり……」 と、定吉は首をかしげる。
「……これが若さというものか……」 と、藤兵衛は軽く戦慄した。
湯上がりの三人が食堂に向かうと、 女将がにこにこしながら膳を運んできた。
「お待たせしました。うち自慢のべっぴん料理ですよ」
「べっぴん……?」 と、藤兵衛が首をかしげると、
「こちら、目光という魚でしてね。 このあたりでよく獲れるんですよ」
皿には、唐揚げになった目光が三匹ずつ。 黄金色に揚がり、香ばしい匂いが漂う。
「では、いただくとするか……」 と、藤兵衛が一口。
「……うまい!」 白身はあっさりしているのに、旨味がしっかりしている。
「これは酒が欲しくなりますな」 と、権兵衛。
「骨まで食べられますよ!」 と、定吉は頭からかじっていた。
続いて出てきたカサゴ、ムツも柔らかく、 三人は舌鼓を打ちながら箸を進めた。
「西浦、侮れぬ……」 と、藤兵衛は満足げに頷いた。
腹いっぱいになった三人は、 ふかふかの布団に戻り、
潮騒を聞きながら眠りについた。
藤兵衛は、 「明日は竹島で開運祈願か……」 と、
ぼんやり思いながら目を閉じた。
その夜、定吉は夢の中で、
巨大な招き猫に追いかけられたとか、追いかけられなかったとか。




