「西浦への道は坂だらけ」
久しぶりの更新です。
この話が終わるまでは週1回更新がんばります。
狐の悲話を見に来たはずが、
赤ら顔の狸猟師(?)弥次さんの劇を見せられた藤兵衛一行。
「さて、名古屋に戻って鴨嘴で江戸へ……」 と、藤兵衛が言いかけたところで、
「若旦那、せっかく三河湾の近くまで来たのですし、竹島の八百富神社で開運と縁結びを祈願していきましょう!」 と、権兵衛が珍しく強く推す。
「ぼくも行きたいです!縁結び!」 と、定吉はなぜか胸を張っていた。
「……おぬしら、何をそんなに縁結びに必死なのじゃ……」 と、藤兵衛は呆れつつも、 二人の熱意に押されて竹島へ向かうことにした。
「竹島の少し手前に温泉地があるようですぞ」 と、権兵衛が地図を指す。
「温泉……」 藤兵衛の目が、きらり。
最近、温泉にすっかりハマっている若旦那。 迷うことなく、
「今日の宿は西浦にするぞ!」
と、即決である。
駅馬車だと大回りで時間がかかるらしい。
「若旦那!西浦行きの乗合馬車がありました!」 と、
定吉が息を切らして戻ってきた。
「よし、それに乗るか」
三人は乗合馬車に乗り込み、西浦へ向けて出発した。
しばらく走ったところで、御者が声を張る。
「これから先、登り切った後は下りで速度が出ますので、
しっかりつかまっていてくださいよー!」
藤兵衛と権兵衛は 「はいはい、心得た」 と聞き流していたが、
定吉だけは目を輝かせていた。
「若旦那!楽しみですね!速いんですよね!」
「……おぬしは本当に……」
外の景色を眺めながら登り坂を進む馬車。
「そろそろ登り切ったかのう……」
そう思った瞬間——
ガタンッ!
視界がぶれた。
「うおっ!?」
「ぬおっ!?」
馬車が急加速し、 藤兵衛と権兵衛は前につんのめる。
一方、定吉は——
「わ~~~!速い~~~!!」 と、まるでいつぞやの乗り物のように大はしゃぎ。
「……この子は強い……」 と、藤兵衛は心の中でつぶやいた。
「まもなく登りに入りますよー!」 御者の声とともに速度が落ち、 ようやく姿勢が戻る三人。
「ふぅ……助かった……」 と、藤兵衛。
「いやはや、なかなかの道でしたな……」 と、権兵衛。
「次の下りはまだですかね!」 と、定吉。
「……次があるのか……?」
再び御者の声。
「これから先、登り切った後は下りで速度がかなり出ますので注意を!」
「ま、またか……」 と、藤兵衛が言い終える前に——
ドンッ!!
急加速。
「ぐはっ!!」 藤兵衛、前の席に頭をぶつける。
「若旦那ぁぁぁ!」 と、定吉は楽しそう。
権兵衛は余裕零で 「ぬおおおおお……!」 と、必死に手すりを握っていた。
ようやく馬車が平地に戻り、 三人はぐったりしながら西浦に到着した。
「……つ、着いた……」 と、藤兵衛。
「温泉……入りたいです……」 と、権兵衛。
「ぼく、もう一回乗りたいです!」 と、定吉。
「……おぬしは化け物か……」
こうして、三人は温泉の町・西浦へと足を踏み入れた。




