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間に合って

ご覧いただき、誠にありがとうございます。




夕暮れが近づく森は、昼間とは違う静けさがある。


木漏れ日は橙色へ変わり、風も少し冷たくなってきた。


リナは籠を抱えながら、慣れた道を歩いていた。

今日は思ったより収穫が良かった。




乾燥用の保存草。

熱冷ましに使う葉。

それから、エドガーが欲しがっていた苔薬草。


「これなら、おじいちゃん喜ぶかも」


小さく笑う。




そのまま森を抜け、街道へ戻ろうとした時だった。



怒鳴り声が響いた。


「囲め!!」

「逃がすな!!」



リナはびくりと肩を震わせた。

この時間に森にいるのはだいたいリナとお使いを頼まれている子供たちが大半なのだ。




少し遠くで、鳥が一斉に飛び立った。


何かがおかしい。



リナは声のする方へ向かった。





街道の先。

大きい馬車や商家の流通の道だ。

そこら辺の平民が近寄っていい場所ではない。





木々の隙間から、豪華な馬車が見える。

深緑と銀で装飾された車体。

バラと鳥の紋様が施されたそれは、この領地ローゼンディアのもの。


つまり、領主様の馬車だ。







だが。


それを囲むように、

薄汚れた男達が武器を振るっていた。


ボロボロの農民服。

それに合わない、透き通った剣。





ただの農民ではない。


リナの心臓がどくりと跳ねる。





嫌な感じがした。


頭の奥がざわつく。

知らないはずなのに。

見たことがある気がした。




炎。


血。


怒鳴り声。


逃げろ、と誰かが叫ぶ声。


胸が苦しくなる。


知らない。


知らないはずなのに。頭が割れるようだ。



「っ……」


リナは思わず木へ手をついた。


息が浅い。


怖い。


なのに、目が離せない。

次の瞬間だった。





鋭い閃光のように、馬車を守っている騎士の剣が振るわれる。


男達が次々と倒れた。


速い。


圧倒的だった。


馬車を守っていた騎士達の、力量は農民?たちよりはるかに上であった。


一方的だった。




悲鳴が上がり、薄汚れた男達は数分もしないうちに制圧される。


森へ逃げようとした者も、すぐ捕らえられていた。

リナの方へ逃げてこなくて良かった。

すぐ切り捨てられていたであろう。







血の匂いだけが残る。


リナは息を呑んだ。


怖かった。


けれど。


その時。


騎士たちの中で少し背の低いおそらく守られていた少年が、ふらりと倒れた。


「エルヴィス様!!」


騎士の叫び声。


深い緑色の髪が揺れる。


まだ若い。


リナの少し年上くらいだろうか。


豪奢な外套。

だが顔色が悪い。異常なほど。







「毒!!!」


リナは思わず叫んでいた。


騎士達が一斉に振り返る。


鋭い視線。


殺気。


リナはびくりと肩を震わせた。


しまった。

出ていくつもりじゃなかった。


けれど。

リナは倒れた少年の傷口が見えてしまった。

刃傷が黒ずんでいる。




あれはまずい。


「貴様、誰だ!」


騎士のひとりが剣を向ける。


怖い。


すごく怖い。


でも。放っておいたら確実に死ぬ。


リナは慌てて籠を下ろした。


「アルトシュタットに住むリナと言います!ど、毒です!たぶん“黒蜘蛛草”系の……っ」


「何故わかる!」


「きっ、傷の色が……!」


騎士達の目が険しくなる。

当然だろう。


森から突然出てきた娘。しかも、倒れた少年の傷から毒の種類までわかる。


怪しすぎる。




だが、少年の呼吸は浅くなっていく。

唇は青紫に変色し始めていた。




リナは唇を噛んだ。


迷っている時間がない。


「ま、待ってください!」




籠から小瓶を取り出す。


エドガーが作った、リナへの簡易解毒薬だった。





「応急処置だけでもしないと……!」


「信用できるか!下がれ!」



剣先がさらに近づく。

怖い。

足が震える。






でも。助けないと。何故かそう思った。







その時だった。


「――リナ!!」


聞き慣れた声。


街道の向こうから、門番服の男が駆けてくる。


ガレスだった。


息を切らしている。


「こんな時間まで戻らねぇから探したんだが……何してる」




そして状況を見て、目を細めた。

騎士達も警戒する。


ガレスはゆっくり手を上げた。


「俺はアルトシュタットの門番をしている、ガレスです。到着予定のローゼンディアの方々でしょうか?」




冷静な声だ。

昔騎士だった名残のような、妙な圧がある。




「その娘はベルン商会に卸す薬を作っている爺さんの孫だ。薬師見習いみたいなもんでな」




騎士達の空気が少し変わる。


「……ベルン商会の?」



誰かが呟いた。

貴族でも使う薬を作っているとなれば話は変わる。




ガレスは小瓶をリナから取って騎士たちに振って見せた。そして短く言った。


「これも、ベルン商家に卸してる薬だ」

ベルン商会の印が見えるか?と言わんばかりに。






騎士達の空気が少し変わった。

ベルン商会の名が出たからだ。

そして、門番が安全を認めた。騎士は門番の顔を覚えている。ガレスは信頼できる平民として騎士たちでは知られていた。






「……使え」


騎士が低く言った。

リナは急いで駆け寄る。





少年――エルヴィスの顔色は、

かなり悪かった。


近くで見ると、目は瞑っていても驚くほど整った顔立ちだと思われた。




けれど今は苦しそうに眉を寄せている。


リナは震える手で、解毒薬を飲ませた。




「飲んで……お願い……」


少年の喉が小さく動く。


数秒。


長い沈黙。


やがて。


荒かった呼吸が、少しだけ落ち着いき、唇の色も戻り始めた。





騎士達が息を呑む。






リナも、へなへなと力が抜けた。


助かった。


たぶん、間に合った。



 下よりブクマ、ご感想、評価いただければ幸いです。


エルヴィス登場です!

ガレスの事も今度深く書きたいな…

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