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ペリヘリオンの夜  作者: よしなか
6章 ベテルギウスの落日
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【挿話】陽だまりの庭へ

 俺は顔がいい。

 自慢じゃない。事実だ。

 鏡を見れば分かるし、見なくても周りが教えてくれる。何もしなくても、女のほうから寄ってきた。

 可愛いね、と言えば頬を染める。綺麗だ、と囁けば目を伏せる。言葉ひとつで相手の顔色が変わるのが面白くて、同じ言葉を何度も使った。

 毎晩、飽きるほど女と遊ぶ――それが御影聖治という男だった。

 俺はこれを武勇伝と呼んでいる。息子に言わせれば、汚点らしい。


 ◇


 ある年の春のことだった。親友が結婚することになった。

 俺と違って真面目で、遊びもせず、一途な奴だった。新婦も可愛らしい人で、昔紹介されたときに手を出したかったが、親友にめちゃくちゃ怒られた。

 その日、披露宴に呼ばれた。

「おめでとう」

「ありがとう。聖治、お前も遊んでないで身を固めたらどうだ?」

「俺はお前と違って、色んな女に求められるんだよ」

 新婦がくすくすと笑っている。

 そんな会話を交わして、席に戻った。

 遠くから親友と新婦を眺める。二人は幸せそうに微笑み合い、挨拶に来る友人たちに、いちいち立ち上がって頭を下げていた。

 ――ふと、左側を見た。

 一人だけ、席から動かない女がいた。

 真っ黒なワンピース。艶のない生地に、花飾りもアクセサリーもない。髪も、ただ後ろでまとめただけ。華やかな会場の中で、そこだけが喪に服しているようだった。

 女は、親友をじっと見つめていた。

 何か決心したように腰を浮かせかけては、また座り直す。見えない糸で、椅子に縫い留められているみたいだった。

 不意に、会場の照明が落ちた。

 司会が二言三言話した後、正面のスクリーンに新郎新婦の歩みが映し出される。来賓が画面に目を向ける中、左側の人影が動いた。

 さっきの女が、そっと立ち上がる。後方の扉へ向かい、静かに会場を出ていった。

「……ちょっと、お手洗い」

「今行くのかよ、聖治」

 一緒に来ていた友人たちの声を背に、俺も会場を出た。


 ◇


 女は引出物の紙袋を手に、式場を出ようとしていた。

「……もう帰るの?」

 なぜか、声をかけていた。

 近くで見ると、美人だった。

 憂いを帯びた横顔で、察しがつく。あいつのことが好きだったのか。

 傷心の女になら付け込めるかもしれない。いつもの遊び心が、頭をもたげた。

「……ええ。彼が幸せなのは、もう分かりましたから」

「良かったらお茶しない? 俺、話聞く――」

「結構です」

 女は、俺の言葉を最後まで聞かなかった。

「あなたの噂は知っています。あなたの考えそうなことも。……あなたにも、彼にも、二度と会うことはないでしょう。さようなら」

 踵を返し、女は足早に去っていく。

「ま、待ってよ!」

 俺の声など、まるで聞こえていないようだった。


 ◇


 あの日から、一ヶ月が経った。

 取引先との約束まで、中途半端に時間が空いた。目についた喫茶店の扉を押す。

「……いらっしゃいま――」

 女性の店員が、俺を見るなり固まった。俺も、彼女――いつか見た喪服の女を見て、同じように固まった。

「やあ、また会えたね」

 俺は客だ。カウンターに座ると、彼女は追い返しもせず、渋々注文を取りに来た。

 エプロンの下は、黒い服だった。

 そして、露骨に嫌な顔をしている。

 コーヒーを頼んだ。温かく、渋みのある一杯を口に含む。

「うま。これ、君が淹れたの?」

「……ええ」

「うまいなぁ。毎日飲みたい」

 睨まれた。他意はなかった。……たぶん。

 軽薄な男の言葉は、そういう意味にしか聞こえないらしい。


 ◇


 それから俺は週に一度は彼女が働く喫茶店を訪れた。

 彼女は怪訝な顔をしながらも、俺にコーヒーを淹れてくれた。

 相変わらず、黒い服を着ている。

「君は黒い服が好きなの?」

「いけませんか?」

「いや。ただ、白が似合いそうだなと思って……」

 彼女はトレーを胸に抱えたまま、少し黙った。

「……そうでしょうね。白石、ですから」

 名前だと気づくのに、少しかかった。

「俺は御影。御影聖治。……白石さん、綺麗な名前だね」

「出会った女性全員に、そう言ってそうですね」

「そんなことないよ!」

 俺はすぐさま否定したが、彼女はまるで聞いていない。

「あなたの軽い言葉に寄ってくる人も、同じように遊びだったのかもしれません。でも、中には本気の女性もいたはずです。あなたは、そういう人たちを、その言葉で踏み躙ってきたんですよ」

 何も言い返せなかった。

 彼女の言う通りだった。顔も覚えていない誰かが、本気だったのかもしれない。考えたことすらなかった。

 その夜、かかってきた電話に、俺は出なかった。

 次の夜も、その次の夜も。


 ◇


 店に通うのは、やめなかった。

 カウンターの端が、いつの間にか俺の席になっていた。

「……あいつのどこが好きだったの?」

 ある雨の日だった。店の中にまで、雨音が響いている。

 客が俺ともう一人くらいしかいない時間に、静かに訊いた。

「あなたと違って、一途なところが」

「手厳しいなあ」

「……ずっと、好きでした」

 布巾が、グラスの縁をゆっくりと回る。

「彼が彼女に一途なことは、わかっていました。それも含めて、好きでした」

「告白しなかったの?」

「……言っても結果は変わらないし、彼と彼女の間を邪魔したくなかったので。……なにより、それを言うことで今の関係が壊れることが、怖かったんです」

 彼女は少し寂しげな表情で、俺に目を向けた。

「……本気になったことのないあなたには、わからないでしょうね」

 そう言って彼女はカウンターの奥へ消えた。

 その日の会計は、この店の店長らしきおじさんがしてくれた。

「……色男のお客さん、そんなに落ち込まなくていいよ」

「え?」

 店長がレジのボタンを押しながら、俺を慰める。

「あの子があんなに喋っているのは珍しい」

「そうなの?」

「ええ。それに、お客さんには強気で言い返している。……あんなに口の強い、素のあの子を初めて見たよ」

 店長はほっとしたように口元を緩めて、お釣りを渡してくれた。

 釣り銭を受け取りながら、俺もたぶん、同じようににやけていたと思う。


 ◇


 気付けば、喫茶店に通うのが日課になっていた。

 携帯の電話帳から、遊びの女の名前は、もう一つも残っていなかった。

 ある日、彼女を食事に誘った。予想通り、断られた。

 それでも、めげなかった。女の名前が一つも残っていない電話帳を見せたりもした。

 何度目かの誘いで、彼女は一度だけだと言って、折れてくれた。

 夜景の見えるレストランの前に、二人で立つ。

「お洒落なところですね」

「ま、まあね」

「緊張してるんですか?」

 女に慣れているはずの俺の体が、珍しく固かった。扉の前で、頭をぽりぽりと掻く。

「……なんでだろうね」

「ふふっ……。まあ、行きましょう」

 リードするはずが、彼女の方が先に扉を開けて、さっさと入ってしまった。

 こんなことは、初めてだった。

 席に着き、ワインを飲み、食事がある程度進んだ頃には、酒のおかげか緊張もほぐれていた。

「……白石……御影……白、御影……石……」

「何をぼやいているんですか」

 呪文のように呟く俺に、彼女が鋭く突っ込む。

「白御影石って知ってる?」

「墓石ですか」

「うん……うん! それで――」

「お断りします」

「何で!? てか、まだ何も言ってないけど!?」

「どうせ、いっしょの墓に入りましょうとか言うんでしょう? 今までそれで女性を――」

「君の言うとおり、今まではそうだった。でも、今は……」

 思わず立ち上がった。

「俺は、君と話すのが楽しい。もっと君と一緒にいたい。……こんな気持ちは、初めてなんだ」

 彼女は、俺の言葉を黙って聞いていた。興奮している俺とは逆に、どこまでも冷静だった。目線だけで、座るよう促される。

「……あなたの気持ちは、分かりました。だけど、駄目です」

 静まり返った店内で、彼女の拒否の声だけが、はっきりと聞こえた。

「……自分の気持ちを、裏切ることになります」

 俺が嫌だから、とは言われなかった。

 促されるまま、席に腰を下ろした。テーブル越しに、声を落とす。

「……それでも、いいんじゃないか」

「え?」

「君の気持ちが、ずっとあいつに向いたままでもいい。……それでも俺は、君といたい」

 彼女は虚を突かれたように、目を丸くしたまま黙っていた。

「あいつを好きなままでいい。その上で、他の誰かを好きになってもいい。それは、裏切りなんかじゃないよ」

 テーブルの上で、彼女の指がわずかに動いた。

「人はきっと、そんなに強くない。……そういう自分を、許してあげなよ」

 彼女は、まるで痛みを押さえるように、胸に手を当てていた。

 その顔を、俺は知らなかった。いつも俺を言い負かしてきた人の、どこにも隠れ場所のない顔だった。

 好きでいてはいけないと、ずっと自分に言い聞かせてきたのだろう。誰にも下ろせなかった荷物を、初めて、ここに置いてもいいと言われた。そんな顔に見えた。


 ◇


 仕事の後の夜の誘いを、すべて断るようになった。

 夕方の職場で、悪友たちには散々茶化された。

「どうした、聖治。病気か?」

「それともいい女が?」

 面白そうに、囃し立てる。

「手強い女がいてさ……」

 彼女には、可愛いも綺麗も、その程度の言葉は通じない。散々使ってきた言葉なのに、何の役にも立たなかった。

 彼女の目は、いつも俺の肩越しに遠くを見ていた。

「聖治が落とせない女って、どんな人なんだろうね?」

「絶対いい女だろ。今度紹介してくれよ!」

「……ああ、いいぜ」

 そう答えて、俺はポケットの中の小箱をそっと握った。

 紹介するなら、これを渡してからだ。


 ◇


 週末の夕方、いつもの喫茶店で彼女を待った。

 この後、あのレストランへ連れて行くつもりだった。夜景の見える窓際の席を、今度はちゃんと予約してある。

 カウンターの端で、コーヒーが冷めていく。

 扉のベルが鳴った。

「お待たせしました」

 仕事終わりの彼女が、エプロンを外しながら近づいてくる。今日も、黒い服だった。

「いや、全然。じゃあ、行こうか」

 立ち上がって、上着を羽織った。

 その拍子だった。

 ポケットから、何かが滑り落ちた。

 小さな箱が床で跳ね、ころころと転がっていく。

 彼女の靴の先で、止まった。

 白石さんが屈んで、それを拾い上げる。

「……これって」

「あー! あーーー!!」

 店中の視線が、こちらに集まった。

 カウンターの奥で、店長がカップを拭く手を止めている。窓際の常連客が、新聞から顔を上げている。

 彼女は手の中の箱と、俺の顔を見比べた。

 それから、吹き出した。

「……あなたは、私の前だと、何もかも上手くいきませんね」

 口元を押さえて、肩を震わせている。

「……違う場所で、渡すつもりだったんだけどな」

 頭を掻いた。耳まで熱かった。

 もう、どうにでもなれ、だ。

 彼女の手から、箱を受け取る。蓋を開けて、もう一度、差し出した。

「……いつも強がってる君が、弱音を吐ける相手でいたい」

 周りの視線が、急にどうでもよくなった。

「泣きたい時も。それから、あわよくば、笑ってる時も。……俺が隣にいることを、許してくれるかい?」

 白石さんは、箱の中の小さな光を見つめていた。

 何も言わなかった。

 ただ、目の縁に何かが溜まっていくのが見えた。瞬きひとつで堰が切れ、頬を伝い、床に落ちる。

 初めて見る、この人の泣き顔だった。

「……仕方ないですね」

 濡れた指が、指輪を摘まんだ。

 一拍遅れて、店中が沸いた。

「おめでとう!」

「やっとか!」

「遅いよ、お兄さん!」

 拍手と口笛の中で、店長がカウンターから出てきた。手には、小さな白い箱。

「そろそろかなと思って、用意してたんですよ」

 箱から出てきたのは、簡素な白いベールだった。

「あなたたち二人を、毎日やきもきしながら見てましたよ」

 店長は笑って、ベールを俺に手渡した。

 受け取って、白石さんの頭にそっと被せる。

 彼女はベールの下で、俯いたままだった。

「……やっぱり、白が似合うじゃないか」

「……そうでしょうね。白石……いえ」

 彼女が、顔を上げる。

 ベールをめくってやると、潤んだ瞳のまま、微笑んでいた。

「……白御影、ですから」


 ◇


 式は、挙げなかった。

 彼女の意思を尊重して、あの日の夜を、俺たちの記念日にした。

 あれほど毎晩、夜を駆け巡っていた俺が、一箇所に留まるなんて。嘘のような日々だった。

「ママ、俺はいつものコーヒーね」

「はいはい」

 喫茶店で磨いた腕で、妻は食卓にコーヒーを出す。俺の隣には、ホットミルクが置かれた。

 五歳の息子が、ぬるめのホットミルクを、さらにふうふうと冷ましながら、少しずつ飲む。

 子どもが好きではない俺が、父親になるなんて――そんなことを考えながら、ホットミルクを啜る陽人の隣で、俺もコーヒーに口をつけた。

「パパ! 美味しい!」

 振り向いた息子の口の上に、白い髭のようなミルクがついていた。

「……可愛い」

 思わず、零していた。

 その様子を見た妻が、いつものように、ふふっと笑った。

「……やっと、本音で言ったわね」


 ◇


 陽人は、まっすぐ育った。

 ただ、俺に似て女にモテた。

 小学校の頃から、下駄箱に手紙が入るようになった。あいつは一通ずつ、ちゃんと封を開けて読んでいた。読み終えると困ったように眉を下げ、机の引き出しにしまう。嬉しそうな顔は、一度も見たことがない。

 俺なら、封を開ける前からにやけていただろう。

 中学に上がると、家の前で女の子たちが待ち伏せするようになった。

「父さん。……僕、風邪ひいてるって言ってくれる?」

 頼まれるまま玄関を開け、熱を出して寝込んでいる、と伝えた。女の子たちは名残惜しそうに帰っていった。

「モテる男は辛いねえ」

「うるさいな」

 それから、ぽつりと呟いた。

「……どうせみんな、顔しか見てない」

 台所から、妻が顔を出した。

「でもね、陽ちゃん」

 濡れた手をエプロンで拭きながら、陽人の隣に腰を下ろす。

「いつか本当に好きな子ができたら、ちゃんと言葉にしなさいね」

「なんで?」

 妻は、少しだけ遠くを見た。

 胸元にそっと手を当てて、続ける。

「ママね、初恋の人に、好きって言えなかったの。怖くて、言えなかった。結果は、きっと変わらなかったと思う。……それでも、せめて伝えたかったなって、少しだけ後悔してるのよ」

「初恋って……父さんじゃないの?」

 陽人が、ちらりと俺を見た。

「そんなわけないじゃない。パパが行く当てがなくて可哀想だったから、仕方なく選んだのよ?」

「ママ……酷くない……?」

 妻はこちらを向いて、「冗談よ」と軽く付け足した。

「でもね、それはそれで、間違ってなかったと思うの。だって、陽ちゃんに会えたもの」

 妻の手が、陽人の頭に伸びる。

「私の人生に、聖治がいて、陽人がいる。これは、何にも代えられないわ」

 言い返そうとした言葉が、喉の奥で止まった。

 陽人は、まだよく分からないという顔をしていた。

 俺だけが、その言葉の重さを知っていた。


 ◇


 東京を出たいと言い出したのは、中学三年の冬だった。

「高校は、こっちじゃないところに行きたい」

 夕飯の箸を置いて、陽人は言った。

「どこ行きたいんだ」

「どこでもいい。人が少なくて、落ち着けるところ」

 それから少し間を置いて、付け加えた。

「……なんなら、名字も白石にしようかな」

「なんで?」

「女たらしの名字、使いたくないし」

 妻が吹き出した。俺は箸を取り落としかけた。

「反抗期かよ!」

「事実でしょ」

 言い返せなかった。

「いいじゃない。ママの綺麗な……穢れのない名字だし」

「ママ!?」

 妻は笑いながら味噌汁を啜っている。止めるどころか、すっかり陽人の味方らしい。

「陽ちゃんなら一人暮らしでも、女遊びなんてしないでしょ?」

「……もったいねえ。俺ならするのに」

「しないよ、母さん」

 陽人がにっこりと、安心させるように笑った。まるで俺とは違う、と言いたげだ。

「わかってるわよ。……でも。もし、したら……」

 妻の目が鋭く陽人を捉えた。

「あ、あの……。神に誓って、しません……」

「うふふ。ちゃんと彼女が出来たら、紹介しなさいよ? ……ママが見極めますからね」

「怖え……」

 男二人で震えながらも、陽人の一人暮らしに賛成した。

 それから数日、夕飯のたびに地図を広げた。陽人が候補を挙げ、俺が茶々を入れ、妻が家賃を見て首を振る。

「ここは?」

 指先で、山陰の小さな町を叩いた。

「朝霧……。聞いたことない」

「田舎だ。人も少ない。それに、ホタルが見られる」

「ホタル?」

「ああ、夏に見られるらしい。今、医療の方で光の研究も注目されてて、御影の仕事とも多少関係するし。田舎で暮らす経験も悪くないだろ」

 陽人がじっとこちらを見た。

「……それ結局、継がせる気だろ」

「継ぎたくなけりゃ、継がなくていい。見ておいて損はないって話だ」

「どうだか」

 陽人は溜息をついて、地図の上の小さな町を見下ろした。

「……まあ、いいけど」

 翌年の春、白石陽人は朝霧町へ発った。

 それから数奇な出会いがあり、高校二年の秋、あいつは一度東京に戻ってきた。

 久しぶりに息子と食べる夕飯の席で、何気なく黒崎の若いCEOの話をした。

 途端に、目の色が変わった。

 ――経営者になる、と。

 深くは聞かなかった。ただ、その瞬間に、息子に火が点いていたことだけはわかった。


 ◇


 息子は可愛い。

 自慢だ。そして事実だ。

 ただ、本人にそう言うと心底嫌そうな顔をされ、すり寄れば逃げていく。

 ――まあ、それも含めて可愛いんだけどな。

 社長だというのに、妻にはからかわれ、息子には逃げられる。家の中の序列は、間違いなく一番下だ。

 そんな毎日も悪くないと、にやけてしまう。

 それが、父親になった御影聖治という男だ。

 明日は、俺たちの記念日だ。毎年、三人であの喫茶店で待ち合わせる。先に来て待っているのは、いつも陽人だ。

 今年も妻と並んで、店に入ろう。


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