第7話 聖女様とのお風呂タイムです。
アリスの規格外な魔法によって爆誕した大浴場は、もはや王宮のそれすら凌駕する大理石の神殿だった。
立ち込める甘い香りの湯気の中、私は湯船の縁に腰掛け、アリスに背中を流してもらっていた。
「……っ、ふぅっ……、はぁっ……」
「アリスさん? 先ほどから息が荒いようですが、大丈夫ですか?」
私の背中をスポンジで擦るアリスの手は、ガタガタと小刻みに震えていた。
「だ、だいじょうぶ、でしゅ……っ。お姉様の、透き通るようなお肌……ああ、神様、私は今、世界の真理に触れて……っ」
「無理をしてはいけませんよ。やはり、先ほどの帝国軍三万との戦いで、相当な魔力を消耗しているのですね」
私は痛む胸を押さえた。
たった一人で大軍を退けた彼女の細腕。トラウマに怯えながらも、私を守るために力を振り絞ってくれたのだ。その反動が、今この瞬間にも彼女の体を蝕んでいるに違いない。
「もう十分ですよ、アリスさん。さあ、一緒にお湯に浸かりましょう」
「ひゃいっ!」
アリスが湯船に入ろうとした、その時だった。
『この悪魔どもがァァァッ!!』
すりガラスの窓の外から、怨嗟の叫び声が響いた。
先ほど全裸にひん剥かれた帝国将軍が、その辺で拾った尖った木の枝を握りしめ、窓を突き破ろうと決死のダイブを仕掛けてきたのだ。
しかし。彼が窓ガラスに触れる1メートル手前。
——ピチューン!!
アリスがこの大浴場にのみ施していた『変態絶対殺す用・超高位自動浄化結界』が作動した。
致死量の聖なる光が将軍の体を包み込み、彼は悲鳴を上げる間もなく、文字通り遥か彼方の夜空へとカッ飛んでいった。空の彼方でキラリと星が瞬く。
「……あら? 今、外で虫か何かがぶつかる音がしませんでしたか?」
「気のせいですわ、お姉様! きっと、哀れな羽虫が光に群がって自滅しただけですっ」
私が振り返った瞬間。
アリスは「ひゅっ」と短く息を呑み、目を見開いた。
湯に濡れた私の髪、そして、全く隠されていない私の豊かな胸元が、彼女の視界にダイレクトに飛び込んだのだ。
「アリスさん?」
「あ、あぁ……お姉、さま……尊、すぎ……」
ツー……と。
アリスの鼻から、一筋の赤い線が垂れた。
彼女はそのまま白目を剥き、幸せそうな笑顔を浮かべて、湯船の中にバタンと倒れ込んだ。
「ア、アリスさぁぁぁん!!? しっかりして! いやだ、ついに魔力切れで倒れてしまったのね!」
私は慌てて全裸のままアリスを抱き起こし、その華奢な体を強く抱きしめた。
豊かな胸の谷間にアリスの顔が埋もれる形になるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「ああ、なんて可哀想な子……! これ以上、この子に過酷な運命を背負わせるわけにはいきません。私が……私が必ず、あなたを幸せにしてあげますからね!」
慈愛に満ちた決意を胸に、私は彼女のサラサラの髪を撫で続けた。
(一方、私の胸の谷間で意識を取り戻しかけていたアリスは、『ここは天国ですか? もう一生このままでいいです』と心の中でガッツポーズを決め、さらに鼻血を増産させていたのだが、私がそれに気づくはずもなかった)




