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第48話 最新型のキャンピングカーで快適な帰路につきますわ。

 王城跡で開催された優雅なピクニックも、無事に閉会の時間を迎えた。


 荷物の撤収も終わり、帰還の準備は万端に整っている。


 マダム先生の情熱的なマナー指導の甲斐もあってか、難民や旧王都の貴族たちの顔には、わずかに生気が戻っていた。


 だが、旧王都の外に広がるのは、容責のない猛吹雪の雪原である。


 薄汚れた布を羽織り、身を寄せ合う難民たちの間から、震える声が漏れ聞こえてきた。


「本当に、この吹雪のなかを歩いて辺境まで行くのか……?」


「無理だ。子供たちの体力がもたない……王都を出る前に凍え死んでしまう」


「せめて、荷馬車の隅にでも乗せてもらえれば……」


 絶望に染まった難民たちが重い足取りで移動を開始するなか、ヴィクトリア様がふと足を止める。


「ちょっと待ちなさい! セレスティア、あなたの馬車はたしかに立派ですけれど」


 赤髪の令嬢は血相を変えて、大勢の難民たちを指した。


「ここにいる難民は、ざっと見積もっても約500人ですわよ!? この極寒のなか、物理的にどうやって連れ帰るおつもり!?」


「そうですわよセレスティア様! いくらなんでも歩かせるのは無茶ですわ!」


 取り巻きの令嬢たちも、悲鳴のような声を上げる。


 私は扇子を口元に当てて、優雅に微笑んだ。


「あら、ヴィクトリア様。皆様も。私は領主よ?」


 避難民の数は、事前の消費物資の計算で約500人と予測がついていた。


「そこで、おるすばんに励む御者へ、簡単なメモを渡しておいたの」


「メモ、ですって……?」


「ええ。『帰りは少しお客様が増えるから、五百人分の座席を用意しておいてね』と」


 ヴィクトリア様が両手で頭を抱え、絶叫した。


「御者に、どうやって500人分の馬車を調達しろというんですのーッ!?」


「常識で考えて不可能ですわ! 近くに村も街もありませんのよ!?」


 絶叫を置き去りにして、私たちは乗ってきた馬車が待つはずの広場へと歩みを進める。


 旧王都の空には、澄み切った青空がどこまでも広がっている。


 しかし、広場へと足を踏み入れた私たちの目の前には、異様な光景が広がっていた。


「な、なんですかアレは……っ!?」


 ルイス侯爵が腰を抜かしてへたり込む。


 旧王都の巨大な大理石の柱や巨木を、荒々しく太い縄で縛り上げた巨大な建造物。


 まるで城壁のような、桁外れの牽引車が目の前にそびえ立つ。


 要塞の先頭には、数十頭の凶悪な地竜やオークたちが並んでいた。


 だが、かつて生態系の頂点に君臨していたはずの魔物たちの姿に、野生の誇りは欠片もない。


「ギギィィ……」


「グルル……ッ」


 魔物たちはなぜか涙目きれいに整列し、食い込むほど太い牽引用の鎖を肩にかけて、プルプルと震えていた。


 並み居る魔物たちを統率する御者台には、見慣れた漆黒の事務官の姿がある。


「レイヴン! おるすばん、ご苦労様ね」


 私が声をかけると、レイヴンは白目を剥き、胃を押さえながらガタガタと震えながら振り返った。


「お、お嬢様……お望み通り、五百人分の、座、席を……」


 猛吹雪のなか、私の残したメモを見てレイヴンはさぞ絶望したにちがいない。


『お客様が増えるから座席を用意しろ、だと……!? この吹雪のなかで!?』と。


 凍死寸前の雪原で、襲いかかってきた現地の魔物たちを、暗殺者の卓越したスキルで物理的にボコボコにして屈服させ。


「お前ら、死にたくなければ木を切れ! 石を運べ!」と、重機代わりに酷使したにちがいない。


 徹夜でこの巨大な土台を建造するなんて、本当に働き者で真面目な事務官ね。


 レイヴンが荒野を這いずり回りながら作った土台を見て、アリスさんとクロエが冷たく鼻で笑う。


「フッ、土台だけはできているようですね。泥だらけですが」


「ですが、こんなゴツゴツした木と石の塊にお嬢様やお客様を乗せるわけにはいきませんわ」


 アリスとクロエが一歩前へ踏み出す。


「光よ、主の御前の玉座となれ」


 アリスさんが指を鳴らすと、温かな光の魔法が要塞全体をやさしくコーティングしていった。


 間髪入れず、クロエの放った無数の鋼糸が外装を瞬時に削り出し、美しい装飾を編み込んでいく。


 ゴツゴツとした瓦礫の要塞が、たった数秒で様変わりした。


 ふかふかのレッドカーペットが敷き詰められ、高級ソファやシャンデリアまで完備されている。


 動く高級ホテルのような、規格外のキャンピングカーが姿を現した。


 絶望の淵にいた難民たちは、目の前に現れた奇跡のような光景に歓喜の涙を流し、一斉に雪原へひれ伏した。


「おおお……! あの漆黒の御方が、我々のために魔物を従えて箱舟を建造してくださったのだ!」


「見よ、あの恐ろしい魔物たちすらひれ伏しているぞ!」


「軍神レイヴン様、万歳!!」


 崇拝の声を一身に浴びるレイヴンは、胃を押さえたままかすれた声で呟いている。


『違う、俺はお嬢様の無茶振りに応えないと殺されるからやっただけだ……』


 ヴィクトリア様が顔を引きつらせて叫んだ。


「御者が方舟を作るなんて聞いたことありませんわーッ!」


 私は満足げにうなずき、扇子をパチンと鳴らす。


「あらあら、レイヴンは本当にDIYが得意なのね」


「みんなで乗れるキャンピングカーだなんて、修学旅行みたいでワクワクするわ!」


 帰ったら、レイヴンには特別ボーナスを弾んであげなくちゃね。


 私たちは次々と豪華なキャンピングカーに乗り込み、出発の準備を整える。


 泥水の中で争っていたアルベルト陛下たちには、あえて声をかけなかった。


「お姉様、あの者たちはどうなさいますか?」


「放っておきなさい。ダイエットの邪魔にならないよう、重たいダンベルとサバイバルナイフだけをそっと置いてきたのだから」


 これで思う存分、ストイックな修行に打ち込めるわね。


 ズズズズズッ……!!


 巨大な地竜たちが一斉に鎖を引き、規格外のキャンピングカーが地鳴りを立てて動き出す。


 旧王都の跡地をあとにした私たちは、いよいよボレアス領への帰路へとついた。

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