第47話 素晴らしいストイックさですわね。
光のドームで囲まれた結界の内部には、穏やかな温もりが満ちている。
すでに宴が始まってしばらく経ち、網の上では追加の赤竜の肉が小気味よい音を立てて焼かれていく。
ヴィクトリア様やマダム先生、そして大勢の難民たちが、温かい肉入りスープやサンドイッチを手にして安堵の息を漏らしていた。
結界の端では、ルイス侯爵が、震える手で難民の幼い子供へと温かいスープを差し出している。
子供が両手で器を受け取り、嬉しそうに啜る姿を見て、ルイス侯爵は泥にまみれた顔を和らげた。
周囲を見渡せば、かつては平民を虫ケラのように扱っていた他の貴族たちも、自らのマントを脱いで老人に羽織らせ、パンを分け合っている。
身分も階級も虚飾も消え去り、ただ生き延びた者同士の静かな連帯が、温かな光の中に広がっていた。
一方で、結界のすぐ外側は、凍てつく冷気と泥水が支配する惨状だった。
純金の巨大噴水から容赦なく降り注ぐ氷水のような飛沫に打たれ、旧国王アルベルトと旧王妃イザベラ様は、ガタガタと激しく身を寄せ合っている。
風に乗って漂う香ばしい肉の匂いと、自分たちがゴミのように見捨てた難民たちの穏やかな笑い声が、旧王族たちの精神をゴリゴリとすり潰していく。
飢えと寒さで正気を失いかけたイザベラ様が、泥水の上に浮かんでいた一枚の枯れ葉を素早く掴み取って口へ運ぼうとする。
しかし、それに気づいたアルベルトがすぐさま枯れ葉を奪い返し、泥にまみれた葉を貪るように咀嚼した。
「あぁっ! 私の食料を! 返しなさい、この無能王!」
「黙れ! 誰のおかげで王妃になれたと思っているのだ!」
かつての最高権力者たちが、たった一枚の枯れ葉を巡って泥水を跳ね上げ、泥の中で取っ組み合いを繰り広げている。
やがて、肉の匂いに耐えきれなくなったアルベルトは、泥に汚れた両手で見えない光の壁をバンバンと乱暴に叩いた。
「頼む! その肉を、そのパンを、一口だけでも我らに恵んでくれ……!」
威厳の欠片もなく、泥水に顔を擦り付けんばかりにして物乞いをする。
血走った目からは涙が溢れ、涎がだらだらとあごを伝えていた。
私は優雅にティーカップを傾け、そんなアルベルトたちを穏やかな目で見つめた。
「素晴らしいストイックさですわね、アルベルト陛下。過酷な断食と寒中水泳による精神修行の最中なのに、私たちの食事にまで気を遣って声をかけてくださるなんて」
「ち、違う! 修行などではない! 腹が、腹が減って死にそうなのだ!」
「皆様、陛下のストイックな挑戦を邪魔してはいけません。私たちは気にせず、静かに見守りましょう。ファイトです、陛下!」
私は無邪気に微笑み、そのまま優雅に視線を外した。
アルベルトの喉が裂けんばかりの悲痛な叫び声は、私の明るい応援によって綺麗にシャットアウトされる。
結界の内側で、ルイス侯爵は手元のサンドイッチを一口齧った。
噛み締めた赤身肉から溢れる重厚な旨味が広がる中、ルイス侯爵は、泥水の中で枯れ葉を奪い合って互いの髪を引っ張り合うかつての主君から、静かに目を背ける。
そして、手元にある泥に汚れた木皿をただじっと凝視した。
その瞬間にルイス侯爵の手が微かに震え、食べかけ of サンドイッチから、一切れの小さなパン屑がポロリとこぼれ落ちる。
パン屑は、光の境界線をすり抜け、外側の冷たい泥の上へと着地した。
それを見たアルベルトとイザベラ様の目が、飢えた獣のようにギラリと光る。
「パ、パンだ……! パンが落ちたぞ!」
「退きなさい! それは私が拾ったものですわ!」
アルベルトとイザベラ様が泥水に顔を突っ込みながら地面を這いずり、一切れのパン屑に向かって折り重なるように飛びついた。
泥を顔中に浴びながら、かつての最高権力者たちが這いつくばって一つのパン屑を奪い合い、やがて力尽きたように泥に沈む。
その凄まじい落差の光景を背に、私は優雅に紅茶を飲み干した。
「皆様、本当に楽しそうにピクニックを満喫して、みんな仲良しになれて良かったわ。




