第44話 断罪の大広間でございまーす!
「皆様、お待たせいたしました! 次に右手に見えてまいりましたのは、かつてお姉様がバカ王子に婚約破棄を突きつけられた因縁の地、『断罪の大広間(跡地)』でございまーす!」
先頭を歩くアリスさんが、光り輝くガイド小旗をふりふりと揺らしながらノリノリで実況する。
その言葉が終わるコンマ一秒前。
アリスさんとクロエの指先が微かに動く。
不浄の地とされた大広間の残骸がチリ一つ残さず消し飛び、一面にふかふかとした美しい芝生がスルスルと敷き詰められていった。
「まあ! お留守番しているシロが思い切り走れる、広大なドッグランにぴったりだわ!」
私は手を叩いて歓声を上げた。シロの遊び場にぴったりね。
***
ボレアス領、執務室。
シロとハミィは、一つの『全自動決裁ライン』へと完全に融合していた。
シロが口から絶え間なく冷気を吐き出し、過熱する魔道具群を冷却し続ける。
横ではハミィが裂けた腹からはみ出た綿をベルトコンベアのように動かして書類を流し、自身の頭をハンコ代わりに、ガチャン、ガチャンと機械的なリズムで書類に打ち付け続けている。
二匹の瞳には、一切の光がなかった。
***
「おお……おおおっ……!」
前回の視察で泥濘に自らの衣服を敷き詰め、薄着のまま震えていたルイス侯爵たちが、突如現れた青々と茂る芝生を前に滝のような涙を流して崩れ落ちた。
「因縁の大広間を、あえて緑豊かな大地へと変えられた。これは我々に『過去の罪を清め、新たな芽吹き(復興)を目指せ』という慈悲深きメッセージなのだ!」
勝手に感動の絶頂に達した貴族たちは、薄着のまま冷たい芝生の上に次々と平伏し、泣き叫び始めた。
スパーン!
鋭い扇子の音が響いた。
「平伏するなら、せめて背筋を伸ばし、指先まで美しく揃えなさい! 芝生に対する礼儀がなっていませんわよ!」
マダム先生が愛用の扇子で、平伏するルイス侯爵たちの背中をビシバシと叩き、平伏のフォーム(マナー)を鬼指導し始める。
「あらあら」
私はその光景を前にして、深く頷いた。
「先生の言う通りよ。ピクニックの場所取りは、綺麗に整列しないとダメよ」
私の何気ないマジレスに、侯爵たちは「おおおっ!」とさらに深く、一糸乱れぬ美しいフォームで芝生に額を擦り付けた。




