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第33話 働き者の二人に休日を与えてみました。

 領地の仕事もひと段落した、ある日の朝。

 私は、いつも身を粉にして働いてくれているアリスとクロエを呼び出した。


「二人とも毎日ありがとう。今日は『休日』としますわ。仕事は禁止、お昼は私が手料理を振る舞いますね!」


 その瞬間、二人は膝から崩れ落ちた。


「お、お休み……? お姉様のお世話ができないなんて、死に、死にますぅっ!」

「お嬢様の手料理!? 美しい指先に万が一火傷でも……私はここで腹を切ってお詫びを……ッ!」


 クロエがスカートから抜き出した短剣を自身の腹へ突き立てようとし、アリスが恐怖でガタガタと震えている。

 働き詰めで心が疲弊しているらしい二人を、私は優しく部屋へ押し込んだ。


「突然の休みに戸惑っているのね。しっかり休んで頂戴」


 私はエプロンを締めてキッチンのまな板の前に立った。


「まずはカボチャね。固いから気をつけないと……えいっ」


 トンッ、と包丁がまな板に触れた瞬間。

 カボチャはが勝手に崩れ落ち、面取りまでされた一口サイズの乱切りへと姿を変えた。

 切り口からは、かすかに銀の糸のような残光が消えていく。


「すごい、力を入れてないのにサクッと切れたわ! なんて切れ味がいい包丁かしら」


「次はコンロね。強火で一気に……」


 火をつけた途端、轟音と共に、青白い炎がコンロから噴き上がった。

 炎の中に小さな精霊の幻影が舞い、フライパンは一瞬で最適な温度に固定される。


「わぁ、すごくいい匂い! 私、もしかして料理の天才かもしれないわ」


 私の初めての手料理は、奇跡的な手際で完成へと近づいていく。

 ――しかし、油断したその時。


 熱い油の飛沫がピチッと跳ね、私の頬に向かって飛んできた。


「あっ――」


 ドガァァァァンッッ!!!


 轟音と共に、キッチンの天井と換気口のカバーが吹き飛んだ。

 黒い覆面にサングラスの不審者が二名、マッハの速度で飛び出してくる。


「「お姉様(お嬢様)に何をするッ!!」」


 アリスの『黄金の光盾』とクロエの『絶対捕縛』が空中で激突。

 手柄を独占しようとした互いの妨害によって軌道が逸れた二人は、私の目の前で激しく正面衝突し、もつれ合いながら床を転がった。


「えっ!? な、何!? 不審者!?」


 私が驚いて声を上げると、衝撃で不審者たちの覆面がズレて見慣れた顔が露わになった。


「あ……」

「しまった……」


 黒ずくめのまま、床で折り重なるように倒れているアリスとクロエ。

 私はその密着した姿を見てすべてを悟り、ポンッと手を打った。


「なるほど! 二人とも、本当はお忍びでデートに行く準備をしていたのね!」


「「……はい?」」


「せっかくのお休みなのに、私が手料理なんて言い出したから出遅れちゃったのね。おまけに、そんな黒ずくめのペアルックまでして……」


 私は慈愛に満ちた笑顔で、二人の顎をそっと指先で持ち上げた。


「ごめんなさいね。二人がそんなに熱烈に愛し合っているなんて気付かなくて」


「「…………ッ!」」


「さあ、気にせず二人でデートに行ってらっしゃい……と言いたいところだけれど」


 私は完成したばかりの料理をテーブルに並べ、ウインクを飛ばした。


「せっかく作ったんだもの。お詫びに、私から二人に『あーん』してあげるわ」


 私は左右の手にスプーンを持ち、二人の口元へ、同時に手料理を運んだ。


「さあ、遠慮しないで。二人一緒に召し上がれ」


「「――ッッ!?」」


『(憎き泥棒猫の目の前で、愛するお姉様(お嬢様)から直接餌付けされる……ッ!?)』


 敬愛する主からの直接の「あーん」という究極の至福。

 しかしそれは同時に、ライバルと全く同じ扱いを受けるという最大の屈辱でもあった。


 究極のジレンマで脳髄を完全に破壊された二人の目尻から、ツーッと一筋の涙がこぼれ落ちる。


「あ、あははは……お姉様の、あーん……」

「ええ……至高の、ご褒美ですわ……」


 二人は差し出されたスプーンをハムッと咥えたまま、綺麗なシンクロ率で白目を剥き、完全にショートして固まった。


「あらあら、美味しすぎて言葉も出ないのね。本当に作り甲斐があるわ」


 私はスプーンを咥えて微動だにしない二人を眺めながら、優雅に紅茶を傾けるのだった。

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