第13話 もふもふの可愛い仔犬を拾いました。
領地内にある森を視察していた時のこと。
茂みの中から、真っ白でふわふわの毛並みを持つ、小さな仔犬が飛び出してきた。
「きゅぅん……」
「まあ! なんて愛らしい仔犬なの! 迷子かしら?」
私がしゃがみ込んでその体を抱き上げると、仔犬は私の胸元にすりすりと顔を擦り付けてきた。
ああ、もふもふ。温かくて癒やされるわ。
すっかり心を奪われた私は、この仔犬を屋敷で保護することに決めた。
……しかし、私が仔犬を胸に抱いた瞬間。
背後に控えていたアリスとクロエの瞳から、一切のハイライトが消え失せた。
「お、お姉様……その薄汚れた畜生、私が『浄化』いたしましょうか?」
「お嬢様、野良犬は病気を持っているやもしれません。私が『解体』して念入りに調べますわ」
二人の声がなぜか絶対零度まで冷え込んでいる。
どうしたのかしら? 普段は動物にも優しい二人なのに。
「大丈夫よ、とても綺麗でいい子だわ。ほら、二人にもご挨拶して」
私が仔犬の顔を二人の方に向けると。
仔犬は、私には見えない角度で、アリスとクロエを見下すように目を細め——『ニチャア』と、完全に人間を小馬鹿にしたドヤ顔で嘲笑した。
(※実はこの仔犬、ただの犬ではなく、『神狼フェンリル』の幼体である。)
『クゥーン……(見ろよこの特等席。お前らには一生座れないだろ? 敗北者ども)』
仔犬の煽りを察知した瞬間。
二人の理性の糸が、ブチィッ! と音を立てて千切れた。
「……上等です。その毛皮、剥いで冬用のコートにしてさしあげますわ!!」
「メイドさん、右から挟み撃ちです。一瞬でミンチにしますよ」
私が「あらあら、元気ねぇ」と微笑んで紅茶を一口飲む、そのコンマ数秒の間。
私の膝の上からフワリと飛び降りた仔犬に向けて、アリスの『光のギロチン』とクロエの『不可視の鋼糸』が音速で迫る。
しかし、仔犬は、空中でトリプルアクセルを決めながらその全てを神回避!
『キャンッ!(遅い遅い!)』
仔犬はクロエの顔面を蹴り台にして壁を蹴り、アリスの頭上に着地してドヤ顔を決めた。
「こ、のぉぉぉぉっ!! 逃がしませんっ!!」
「チッ、すばしっこい害獣ですね……!!」
ズババババババッ!! ドガァァァァン!!
屋敷の応接間で、見えない斬撃と光のレーザーが乱れ飛び、仔犬が残像を残しながらそれを煽り避ける超次元のバトルが勃発した。
「……あら?」
私が紅茶のカップを置き、振り返った時には。
「きゅぅ〜ん♡」
「「……ッ!!」」
仔犬はすでに私の膝の上に戻って丸くなっており、アリスとクロエは息を切らしながらも、作り笑いを浮かべて硬直していた。
「ふふっ。三人で『追いかけっこ』をして遊んでいたのね? 出会ったばかりなのに、もうそんなに仲良くなるなんて。私、とっても嬉しいわ」
私が慈愛に満ちた笑顔でそう言うと、二人は顔を引きつらせながらも「は、はいっ! とっても仲良しですぅ!」と同調するしかなかった。
(なお、私の膝の上で眠る仔犬は『俺の勝ちだ』と言わんばかりに二人に向けて尻尾を振っており、アリスとクロエは血の涙を流しながらハンカチを噛みちぎっていたのだった)




