第11話 領地に古代ダンジョンが現れました。
ボレアス領の開拓中、山脈の奥深くで古代の地下遺跡が発見された。
私は領主として、安全確認のため、アリスとクロエを伴って視察に訪れていた。
「お姉様、足元が暗いです。私の手につかまってくださいねっ♡」
「抜け駆けはずるいですね、聖女様。お嬢様、こちらには私がふかふかの絨毯を敷き詰めておきました」
左右から過剰なまでのエスコートを受けながら、私たちは遺跡の最深部へと足を踏み入れた。
そこは、巨大なドーム状の空間だった。
『グルルルルル……』
突如、空間が震えた。
ドームの中央。何重もの魔法陣の封印を破り、巨大な影が立ち上がる。
漆黒の鱗、六つの瞳、そしてマグマのように煮えたぎるブレス。それは、かつて神話の時代に世界を滅ぼしかけたとされる伝説の魔獣『厄災の邪竜』だった。
「まあ……立派なトカゲね。新種の魔物かしら」
私が首を傾げたその時、邪竜が天を仰ぎ、絶望の咆哮を放とうと大きく息を吸い込んだ。
『グオオオオオオ——』
——パァンッ!!
邪竜の咆哮は、クロエが投げた『オリハルコン製の特注フライパン』が顔面に直撃したことで、カエルのような悲鳴に変わった。
「うるさいですね。お嬢様の鼓膜が痛んだらどうするおつもりで?」
「ちょっとメイドさん! 私がお姉様を『聖なる静寂の結界』で優しく包み込もうとしていたのに、手柄を横取りしないでくださる!?」
アリスがクロエをキッと睨みつける。
二人の関心は、目の前の伝説の邪竜には一切向いていなかった。
「ふふっ、聖女様の魔法など当てになりませんからね。お嬢様の安全は私が守ります」
「言いましたね? ならば、あのトカゲの討伐スピードで勝負です。……遅れた方は、今後一ヶ月、お姉様のお茶汲み禁止ですからね!」
「望むところです」
『グガァァァッ!?(※まだ我の番ぞ……)』
邪竜が怒り狂ってブレスを放とうとした瞬間。
アリスの指先から放たれた『神罰の光槍』数百本と、クロエが放った『見えない不可視の斬撃』数千発が、同時に邪竜へと殺到した。
ズバババババババッ!!!
ドグワァァァァン!!!
光と斬撃の嵐。
かつて世界を絶望に陥れた厄災の化身は、悲鳴を上げる間もなく、瞬きする間に綺麗なサイコロ状の肉塊(厚切りサイズ)へと加工され、光の粒子となって消滅した。
「……あら?」
強烈な閃光に私が一瞬だけ目を閉じ、再び目を開けた時には、巨大なトカゲの姿はどこにもなく、代わりに、少し息を切らしながらも爽やかな笑顔を浮かべる二人が立っていた。
「終わりましたよ、お姉様! 私の魔法の美しさ、見ていただけましたか!?」
「いいえ、お嬢様。私が最初に急所を突いたからこその芸術的な解体ですよ」
火花を散らす二人を見て、私はポンッと手を打った。
「二人とも、汗をかいてどうしたの? ……ああ、もしかして、私を待たせている間に、二人で『鬼ごっこ』でもして遊んでいたのね?」
「「……えっ?」」
「ふふっ。最近は忙しかったから、体を動かしたかったのでしょう? 出会ったばかりなのに、そんなに元気に走り回るほど仲良しだなんて、私、本当に嬉しいわ」
私が慈愛に満ちた笑顔で微笑むと、二人は顔を見合わせた後、同時に顔を真っ赤にして私にすり寄ってきた。
「はいっ! 私たち、とぉっても仲良しですぅっ! だから私を撫でてください、お姉様っ!」
「ええ、とても良い運動になりました。お嬢様、どうか汗を拭いていただけませんか?」
(背後には、神話の邪竜が遺した超レアな『竜の魔石』がゴロゴロと転がっていたが、二人の仲の良さに満足した私は、それに気づくことなく遺跡を後にしたのだった)




