誰もいない台所で、明日の音が鳴る
最終エピソード掲載日:2026/07/11
祖母の家を継いだ夏。夜明け前の台所から、水音がする。米を研ぐ音、まな板、戸棚——子供の頃、夏休みごとに聞いた、祖母の朝の音。けれど、この家には、私しかいない。
なつかしい、と思ってしまった。それが、いちばんの間違いだった。
音を書き取るうち、私は気づいてしまう。鳴らないはずの音が鳴り、降っていない雨が鳴る。あの音は、祖母の残響ではない。一日早く鳴っている——明日の音だ。
そして、ある夜。明日の音の中で、深夜二時十六分から先、私の音だけが、途絶えていた。
倒れる音も、争う音もない。ただ、次の足音がない。私の明日に、何が起きるのか。音は、それを、教えてくれない。
なつかしい、と思ってしまった。それが、いちばんの間違いだった。
音を書き取るうち、私は気づいてしまう。鳴らないはずの音が鳴り、降っていない雨が鳴る。あの音は、祖母の残響ではない。一日早く鳴っている——明日の音だ。
そして、ある夜。明日の音の中で、深夜二時十六分から先、私の音だけが、途絶えていた。
倒れる音も、争う音もない。ただ、次の足音がない。私の明日に、何が起きるのか。音は、それを、教えてくれない。