season1 第8章 「ありがとう」
これは実際に経験した中学の頃の経験をもとに書いた小説です。「全20話」
*"『ありがとう』の一言は、心の奥で消えかけていた自信を、少しずつ育ててくれた。"
「Ami、お手伝いお願いしてもいい?」
養護の先生にそう声をかけられた日。
私は少し驚きながらも、小さくうなずいた。
「……私でいいんですか?」
先生はすぐに笑顔で答えた。
「もちろん。Amiだからお願いしたいんだよ。」
その言葉が、胸の奥にそっと残った。
保健室では、難しいことをするわけじゃなかった。
棚の本を並べたり。
プリントを数えたり。
タオルをたたんだり。
使った机をきれいに拭いたり。
ほんの小さなお手伝い。
でも、その一つひとつが私には特別だった。
「ありがとう。」
先生は、どんな小さなことでも必ずそう言ってくれた。
「助かったよ。」
「Amiがいてくれてよかった。」
その言葉を聞くたびに、少しだけ照れくさくて、でも嬉しかった。
学校では、「何もできない自分」だと思っていた。
教室にも行けない。
みんなと同じようには過ごせない。
そんな私でも、誰かの役に立てることがある。
そう思えたのは、先生のおかげだった。
ある日の帰り際。
「先生、もう何か手伝うことありますか?」
気づけば、自分からそう聞いていた。
先生は少し驚いたように目を丸くして、それから優しく笑った。
「ありがとう。でも今日はもう大丈夫。」
そう言いながら、先生は私の方を見て続けた。
「Amiがここに来てくれるだけで、先生は嬉しいんだよ。」
その言葉を聞いた瞬間、胸がぎゅっと熱くなった。
私は何も言えず、ただ小さく笑った。
帰り道。
夕焼けに染まる校舎を見上げながら思った。
「明日も学校に行こうかな。」
そんなふうに思えたのは、久しぶりだった。
だけど、その穏やかな毎日は、ずっと続くわけではなかった。
季節が冬へ近づく頃。
私の心は、また少しずつ暗闇に飲み込まれていくことになる。




