season1 第14話「いつもの場所、いつもの声」
これは実際に経験した中学の頃の経験をもとに書いた小説です。「全20話」
*"特別なことなんて何もない。ただ、そこにいてくれる。それだけで安心できる日がある。"
中学二年生になって、少しずつ学校での過ごし方が決まっていった。
朝、学校へ着く。
教室の前まで行く。
でも、やっぱり中には入れない。
そんな日は、廊下から外を眺めていたり、空いている狭い教室で過ごしたりする。
そして3限になると、別室へ向かう。
最初の頃は、その時間になるたびに少し緊張していた。
新しい養護の先生。
新しい担任の先生。
まだ、どこか距離があるように感じていたから。
でも、いつの間にか少しずつ変わっていった。
「Ami、おはよう。」
朝、廊下で担任の先生が声をかけてくれる。
「おはようございます。」
最初はそれだけ。
でも、何日かすると、
「今日は眠そうだね。」
「昨日ちゃんと寝ました?」
「うーん……ちょっとだけ。」
そんな会話が増えていった。
先生は、教室に入れない私を無理に連れて行こうとはしなかった。
ただ、様子を見に来てくれる。
それが嬉しかった。
3限になり、別室へ向かう。
ドアを開けると、養護の先生が笑ってくれる。
「今日も来たね。」
「はい。」
「今日は何してたの?」
「漢字です。」
「また漢字?」
「はい。」
「じゃあ、国語の先生になれるね。」
「なりませんよ。」
思わず笑ってしまった。
先生も笑う。
そんな何気ないやり取りが、少しずつ増えていった。
しばらくすると、別室のドアが開く。
「Ami、どう?」
担任の先生だった。
「普通です。」
「そっか。じゃあ先生も少しここにいようかな。」
先生はそう言って、近くの椅子に座った。
養護の先生と担任の先生。
二人がいる別室は、いつの間にか私にとって落ち着ける場所になっていた。
三人で話すこともあれば、先生同士が話しているのを私が聞いているだけの日もある。
それでも、不思議と嫌じゃなかった。
むしろ、その空間にいることが心地よかった。
ある日、担任の先生がふと聞いた。
「Amiって、学校で一番落ち着く場所ってどこ?」
ー私は「前に養護の先生にも聞かれたな…って思いながら...」
「……保健室...です」
「保健室?」
「はい。」
先生は嬉しそうに笑った。
「そっか。」
養護の先生も笑う。
「じゃあ、保健室はAmiの居場所だね。」
その言葉に、私は少しだけ胸が温かくなった。
「……私の場所。」
小さく繰り返してみる。
その言葉が、なんだか不思議だった。
中学一年生の頃。
私は学校に自分の居場所がないと思っていた。
教室に入れなくて、誰とも話せなくて。
別室や保健室にいることさえ、「ここにいていいのかな」と考えていた。
でも今は、
「ここにいていい」
そう思える瞬間が少しずつ増えていた。
帰る時間。
担任の先生が言った。
「また明日ね。」
「はい。」
養護の先生も、
「また明日。」
と笑ってくれる。
私は二人を見て、小さく笑った。
「……また明日。」
廊下を歩きながら、私はふと思った。
先生たちは、特別なことをしているわけじゃない。
毎日声をかけてくれて。
時々話を聞いてくれて。
別室に来てくれて。
ただ、それだけ。
でも、その「ただそれだけ」が、私にとっては大きかった。
大切な先生たちとの別れで空いてしまった心の隙間に、少しずつ新しい声が増えていく。
まだ、前の先生たちを忘れたわけじゃない。
それでも私は、少しずつ新しい居場所を作り始めていた。
そしてこの頃から――
私は先生たちと過ごす時間を、少しだけ楽しみにするようになっていた。




