season1 第13話「少しずつ、増えていく会話」
これは実際に経験した中学の頃の経験をもとに書いた小説です。「全20話」
*"一人の先生だけじゃなかった。気づけば、私のことを気にかけてくれる人が少しずつ増えていた。"
新しい養護の先生と話すようになって、少しだけ時間が経った。
毎日話すわけではない。
でも、別室へ行くと先生が声をかけてくれることが増えた。
「おはよう、Amiさん。」
「おはようございます。」
最初は、それだけだった。
それでも、以前より自然に返事ができるようになっていた。
ある日の3限。
いつものように別室へ向かい、少しすると養護の先生が来た。
「今日も来たね。」
「はい。」
先生は私の隣に座った。
「今日は何するの?」
「....漢字です。」
「漢字好き?」
「……普通です。」
先生が少し笑った。
「じゃあ、好きなものは?」
私は黙った。
そんなことを聞かれるとは思っていなかった。
「……分かりません。」
「そっか。」
先生は無理に答えを求めなかった。
少し時間を置いてから、また別のことを聞いてくれる。
「じゃあ、学校で好きな場所は?」
私は少し考えた。
「……保健室....かな。」
先生は嬉しそうに笑った。
「保健室?」
「……はい。」
「そっか。じゃあ、疲れた時は保健室でゆっくりしていこうね。」
そんな何気ない会話が、少しずつ増えていった。
しばらくすると、別室のドアが開いた。
「Ami、いる?」
新しい担任の先生だった。
「……はい。」
先生は部屋に入ってくると、私の少し離れたところに座った。
「今日どう?」
「普通です。」
「そっか。」
担任の先生も、無理に話を引き出そうとはしなかった。
ただ、別室に来てくれる。
それだけだった。
「先生、今日ここにいてもいい?」
養護の先生が聞くと、担任の先生は笑った。
「もちろん。」
二人の先生が同じ場所にいる。
その光景が、なんだか不思議だった。
去年は、別の先生たちがここにいた。
今は、新しい先生たちがいる。
まだ前の先生たちのことを忘れたわけじゃない。
むしろ、ふとした瞬間に思い出してしまう。
でも、新しい先生たちも私を急かさずに待ってくれている。
そのことが少しずつ分かってきた。
「Ami。」
担任の先生が声をかけた。
「教室じゃなくても、ここで話せることがあったらいつでも話してね。」
「……はい。」
「先生、結構ここに来るから。」
少し冗談っぽく言った先生に、私は思わず笑った。
「本当に来るんですか?」
「来るよ。」
「毎日?」
「毎日は……どうかな。」
先生も笑った。
その会話が、なぜか嬉しかった。
以前の私は、先生から話しかけられても「大丈夫です」としか言えなかった。
でも今は、ほんの少しだけ会話が続く。
養護の先生とも。
担任の先生とも。
まだ、自分からたくさん話せるわけじゃない。
それでも、私の周りには少しずつ「話せる人」が増えていた。
帰る前、養護の先生が言った。
「また明日ね。」
私は笑って答えた。
「……また明日。」
別室を出ると、廊下の先に担任の先生がいた。
「Ami、また明日。」
「はい。また明日。」
二人の「また明日」が、少しだけ嬉しかった。
私はまだ、完全に心を開いたわけじゃない。
でも――
一人だった場所に、少しずつ誰かの声が増えていた。
そしてその声は、いつの間にか私にとって大切なものになり始めていた。




