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2話 そうだ、セイバーに乗ろう

コンコン


ある日の夕方、ノックの音が家に響く。


「今出ます」


今日は早朝から出勤だったらしく早めに帰ってきた父親、シアが玄関に向かう。


「やあ、シア中尉(ミッドスター)。」


「お疲れ様です、アンドリュー少佐(リトルオペレータ)。」


中尉はミッドスター、少佐はリトルオペレータというのか。少尉はリトルスターなのだろうか?


アンドリュー少佐。そう呼ばれた30代半ば程とみられる軍服を纏った人物。少佐、つまりシアより上の存在だ。一体何をされにきたのか?


「この子か?例の倅は。」


「はい、賢くて自慢の息子です。」


「はっはっ、君に賢いなんて言われたら期待せずにはいられないねぇ!」


「やめてくださいよ、少佐」


おお、大人同士の掛け合い。なんかいいよねこういうの。居酒屋とかでよく見そうな光景。行ったことないけど。


「君が、ハートくんで合ってるかな?」


「は、はい。ハートと申します。」


やばい、軍の所作とかなんも知らない。

子供相手に即射殺とかないよな?


「うん、聞いていた通りいい子だね。初めまして、アンドリュー・グライアスだ。それに、この歳で強面な俺に名前を聞かれても物怖じしない胆力が素敵だ。」


いや、全然怖いけど。マジでなんの用ですかね。


「ありがとうございます。」


「で、だ。競技用のセイバーに興味があるって話だったね?」


あ。普通に忘れてた。その話か。


「それにしても、競技用とはいえこの歳でセイバーに興味があるなんて...珍しい子だね。一体どんな教育をしてるんだい?」


「ち、違いますよ少佐。誓って可笑しな教育はしていません。」


「ははは、からかっただけだよ。君に限ってそんなことは無いだろうからね。」


かなり仲がいいんだな、このふたり。まだこの世界に来てから一度も友達が出来てないから、素直に羨ましい。


「それで...どこから話すべきかな。シアは何か、説明したりはしたか?」


「いえ、ほとんど。」


「そうか。尚更興味を持ったきっかけが気になるが、まあいいか。まずはセイバーの用途について話そうか。」


「お願いします!」


今までかっこいいロボット!くらいにしか思ってなかったからここで説明を受けれるのはありがたい。


「君はセイバーが何に使われてるか、知っているかい?」


「えっと...軍に使われてるってことくらいしか分からないです。」


「まあその認識で概ね合っているよ。細分化すると戦闘機だったり輸送機、救護機と色々な役割がそれぞれあるが、共通して軍用としてのみ使われている。」


なるほど。戦闘用以外もやはりあるのか。救護機...救助用って感じか?


「そして、セイバーの訓練用として使われていた〜〜システム...疑〜〜神経接〜〜装置...子供に説明するには難しいな。まあ要するに、セイバーに乗らずにセイバーの操縦訓練ができる装置が開発されたんだ。」


聞き取れない単語がちらほら出てきた。俺はまだ4歳だぞ。


「そんなものがあるんですね。」


「その装置を競技用に転用したものが、今の競技セイバーと呼ばれるもの、セイバースになったんだ。」


セイバース、それが競技用のセイバーの名前か。中世の命の取り合いが現代でフェンシングとして再現されている、みたいな感じか。


「それで、セイバースに参加する方法はひとつしかない。」


「なんでしょうか?」


「首都フリジアに行って、そこでセイバースギルドに登録するんだ。」


首都!やはりどの国にもあるんだな!

そしてギルド!異世界でしか聞かない単語!


初めての外出イベントの予感にワクワクが止まらない。別に家が嫌いって訳では無いが、現代っ子の高校生の精神で過ごす4年間は流石に暇を持て余していたところだった。


「だが4歳の子に一人で首都まで行かせるわけにはいかない。そしてセイバースギルドに行けたとしてもはいそうですかとすんなり登録が済むわけではないんだ。」


「と、いいますと?」


「セイバースギルドっていうのは結構その、血気盛んなやつが多くてな。そこに顔も知らない新参者がやってきたとあらば十中八九絡まれるだろう。」


そういうものか。異世界ファンタジーの冒険者ギルドそのままだな。


「ま、そこでこの俺の出番って感じだ。軍部としてセイバースギルドとは繋がりが深い。俺の顔を立てりゃチンピラなんて1発よ。」


「頼もしいですね。」


いや本当に頼もしい。この世界の勝手なんて全くわからないから、こういう大人に頼れるのは相当運がいいと思う。


「そして、俺は明日非番だ。ハートくん、君さえ良ければ明日すぐにでもフリジアに向かえるぞ。」


「ほんとうですか!」


「元気があっていいね、決まりかな。シアも、それでいいかい?」


「はい、少佐。息子の面倒をよろしくお願いします。」


「任せろよ。この〜に誓って、危ないことには巻き込まさせないさ。」


肝心なところが分からないが、まあ宗教的な感じだろう。私の神に誓って、みたいな。


「それではハート君。明日の朝また迎えに来るから、夜更かしはしないように。」


「はい!少佐!」


そう答えるとアンドリューは一瞬目を丸くした後、高笑いしながら帰っていった。


─────────


コンコン

明け方、約束通りノックの音がする。



「おはよう、ハート君。よく眠れたかな?」


「いえ、実は緊張であまり。」


「はっはっ、聞いたところ外に出ることが初めてらしいじゃないか。確かにその歳でフリジアまで赴く子供ということ自体珍しいしな。」


「無理言ってすみません。」


「いいんだいいんだ。さあ、向かおうか。」


昨日のうちに母が準備してくれた荷物を携え、準備は済んだ。

初めての外出、さてどうなるか。


「フリジアまではどれくらいですか?」


「うむ、まあ徒歩で行くとしたら順調に行けば6時間程だろうな。」


...6時間?歩くの?


「はっはっは、まさか歩くんですか?とでも言いたそうな顔だな。」


「!い、いえ、少し驚いただけで、自分は大丈夫です!」


「バカ言うな。4歳の子供を6時間も歩かせたなどと、シアにバレたら何されるかわかったもんじゃない。」


「で、では?」


「もちろん、コネの使い所だ。軍の大人を舐めてもらっちゃ困るさ。」


そう言ってアンドリューは指を指す。その先にあるのは...


「車、ですか?」


「お?車を知ってるのか。正しくはギーツと呼ぶ。旧世代の軍用の輸送車だがな。セイバーの輸送機が主流の今じゃ古代の残骸よ。で、使われてないこいつを軍に申請して借りてきたってわけだ。」


「え、これに乗れるんですか!?」


「そうだ。なかなかできる体験じゃないぞ?こいつを使えばフリジアまで1時間もかからん。」


それは凄いな。日本のに比べたら少し...いや、かなりゴツイが。 燃費が終わってそうだ。というかセイバーもそうだが、この世界の主な動力ってなんなのだろうか?石炭?


ヴォオオオン


轟音が鳴り響く。


「うっし、乗れ!」


おおおおお!男心をくすぐるエンジン音!というか、アンドリューさんが運転してくれるのか。すごいなこの人。


「はい!」


俺が乗り込むと、そのまま快音を鳴らしながら道を進んでゆく。というか、速い!めっちゃ速いこれ!


「乗り心地はどうだ?」


「は、速くないですか?」


「ははは、問題ない!これからセイバースになろうとしてる男がこれくらいでビビるな!」


そうか、この世界に車は普及していない。

当然道路交通法など存在しない。つまり速度制限などもない。飛ばし放題なわけだ。


重力を感じるほどの猛スピードで首都、フリジアまで向かう。最初はあんなにも怖かったものが、もはや快感だ。初めてバイク乗る人とかこんな気持ちなのだろうか。


「見えてきたな。あれがこの星の首都、フリジアだ。真ん中のデッケーのがロードアルカラス、隣の翠星(すいせい)アルカラスと繋がってる塔だな。うちの同盟星でもある。」


...はい?星の首都?隣の星と繋がってる?


「えっと、フリジアが星の首都、というのは?」


「んあ?シアのやつ、なんも教えてないのか?...そういや4歳か、むしろ賢すぎる方だな。」


一瞬困った顔をしたアンドリューだが、その後すぐ納得したような顔になる。


「えーっとだな、そもそもうちの星、輝星アルテミスの首都がフリジア、それは知ってるか?」


いやまてまてまて、そうか。地球基準で物事を考えすぎていた。地球のようにひとつの惑星に様々な国がある訳じゃない、星自体がひとつの国なのか。


「知りませんでした、てっきりひとつの星に色々な国があるのかと...」


「ひとつの星に?そんな星あんのか...?争いが絶えなさそうだな。帝星ですらもう100年以上前に統一されてるからな。おそらくそんな星は余程遠くないと見つからないぞ。」


すごい図星をついてきた。確かに争いは絶えてない。


「まあとにかく俺らの住む星、アルテミス。そしてこの星の首都、フリジア。そしてフリジアのど真ん中にあるでかい塔、翠星アルカラスと繋がっているのがロードアルカラス。ここまでいいか?」


「えーっと、大丈夫です。」


これから向かう首都がこの星全体の中心である首都、そしてこの世界に転生した時から気になっていた目の前のバカでかい星、それがアルカラス。そして首都フリジアにはそのアルカラスとこの星アルテミスを繋ぐ塔がある、と。

宇宙(そら)から見たらダンベルみたいになってるんだろうか?自転やら公転やらは...考えない方が良さそうだな。


「よし、まあそんな話も済んだところだ。もうフリジアに入るぞ。降りる準備だけしといてくれ。」


考え事をしているうちに眼前には大きな建物が並び立っていた。


────首都フリジア、星の咲く都市だ。

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