1話 知らない天体
空。
それは上を見上げれば色々な表情の景色を見せてくれるもの。曇っていたり、晴れていたり。
特段その景色が好きではないものでも偶の感傷に浸らせてくれるものだ。
しかし、俺が今見ているそれは見慣れたものとは全く異なる。
手が届きそうな位置にある星。目を凝らすと建造物のようなものも見える。それほどの距離にある星。
日本では、いや地球上では見ることの無い景色だ。
「〜〜〜。」
母親が何かを話している。というか自分に語りかけている。
しかし全くもってわからない。日本語はおろか、英語、韓国語、中国語、少なくとも俺の知っている国の言語でもない。
その点からも推測が確信に近づく。
ありふれた日本の高校生、高橋帆斗。
俺は別世界か、別次元か、いずれにせよ、元いた地球とは異なる星に転生してしまったらしい。
そんなよくある話───ゴォオオオン
よくある...話?
騒音に思わず空を見上げると、大きな機械が6...8体?飛んでいる。一瞬飛行機を思い浮かべたが、少なくとも日本で見ていたそれとは全く違う形状。飛行機に乗ったことはないが。
目を凝らすと、手足のようなものが付いているように見える。全くもって見たことは無い存在、なのに強い既視感。
あれは───ロボットだ。というかガン〇ムだ。
ほぼガン〇ムじゃないか。
俺の知ってる異世界転生じゃないぞ!?
俺の知ってる異世界転生の話は、現代の日本よりかなり文明が遅れてて、その代わりに剣とか魔法が発展してて、色んな種族がいて...
少なくとも、今俺の目の前を高速で飛んで行ったあのロボットは、現代の地球の技術では到底創れない代物だ。何がどうなってるんだ?!話が違うぞ!
...いやそもそも転生した時点で話は全然違うんだが、それはそうだがそうじゃない。
現代より発展してる世界に転生するパターンなぞ聞いたことも見たこともない。どこのB級SF小説だ。
階段から落ちたらおそらく死んでいて、目覚めたら赤ん坊で、自分を抱いているのは知らない言語を喋る母と父。空を見上げるとバカデカイ惑星にガン〇ムもどきのロボット。
...俺の第2の人生はどうなってしまうんだ?
────────
この世界に来てから4年の月日が経った。
体感では昨日死んだばかりなのだが、赤ん坊の時の流れってめちゃくちゃ早く感じるんだな。
「ハート。おはよう、私の天使。」
毎朝同じ言葉を投げかけられる。
ハート。それがこの世界での俺の名前らしい。偶然か必然か、日本にいた時と似た名前だ。
難しい話はまだ理解できないが、日常会話位はできるようになってきた。英検で言ったら3級くらいだろうか?
「お母さん、おはよう。」
「あら、もうハッキリと挨拶を言えるようになったのね。うちの子の成長は早いわ。」
翠緑の髪に碧眼。
ルージュ・エルドリーゼ。この世界の母親だ。
年齢は...いくつだろう?見た目で言うと地球なら20代半ば...いや前半くらいだろうか?日本の親戚にいた姉位の年齢に近い気がする。
美しい人だ。贔屓目に見ても美人だと思う。それともこれがこの世界の平均くらいなのだろうか?
母親が美人なのは異世界ファンタジーでは定番だ。
この世界に来て4年で気づいたことが何個かある。
まず、最初に見たインパクトほど発展していないということだ。ロボットを見て近未来を想像していたが、スマホのような通信機器は一般には普及していないし、電気もLEDではなくガス式が多い。テレビのような映像機器も一般的な家庭には普及していないようだ。
ウチも貧乏では無い方だと思うのだが、家の造りは石と木がほとんどで、中世ヨーロッパのような家を彷彿とさせる。恐らくほとんどの家庭がそうだと思われる。
...ここら一帯がありえないほどド田舎の可能性もある。遠出したことがないので断定はできない。
次に、さっき述べたロボット等、その他の近未来的な機械共々は全て軍用ということ。一般家庭にはロボットはおろか、車すら普及してないみたいだ。なんというか、これでどうやって国を保っているのか不思議で仕方ない。
そもそもロボットが戦闘用なのか運搬用なのかすら定かではないが、俺が乗る機会は無さそうだ。ア〇ロやス〇クになる準備は出来てたんだけどな。
そして、まあ分かりきっていたことだが剣や魔法は存在しないらしい。
異世界ファンタジーお決まりのチートスキルや圧倒的才能、というのを期待してたんだがこんな世界じゃ望みは薄そうだ。
あとは────
「ただいま帰った。」
「お帰りなさい。あなた。」
この世界の父親、シア・エルドリーゼだ。
白髪に白い眼。アルビノ、この世界にその単語があるかは分からないが。
母親も大概の美人だが、彼はもはや芸術の域というか、写真を撮ってTwitterにでも載せたらAiを疑われるような、そのレベルの顔の整い方だ。
「お父さん、今日はロボットに乗った?」
「ロボット──ああ、セイバーのことか。ハハ、何度も言ってるだろう、ハート?俺はセイバーの操縦士じゃないんだ。」
Saber───それがあの空を駆けるロボットの名前。
父親は軍人だ。しかも元の世界で言うところの中尉程度にあたる階級。イマイチ基準が分からないが、今のシアの年齢で中尉というのは優秀なのだろう。
しかしそんな階級の父親でもセイバーの操縦士では無いらしい。一体どんな人物がセイバーの操縦士になれるのだろうか?
「お父さんはセイバーに乗らないの?」
「...ハート、あれはね。限られた人の中でも選ばれた人しか乗ることが許されないんだ。」
「選ばれた...人?」
「そうだ。簡単にはなれないんだ。」
「そっか...僕もいつか───」
「ダメだ。」
言い終わる前に、遮られた。
なんか禁忌に触れてしまったか?
「っ、すまないハート。無理なんだ。」
ハッと申し訳なさそうな顔になる父。
俺のガン〇ムパイロットの道は絶たれてしまったみたいだ。だがあの温厚な父があんな複雑そうな表情を浮かべているのは初めてみた。まだ4歳の俺にはわからないが、きっとこの世界なりの事情があるんだろう。
「ごめんなさい、お父さん。」
「いや、いいんだ。ハート、操縦士になりたいのか?」
「え?」
あれ?これはどう答えたらいいんだ?なりたい!と答えたら異端扱いで捨てられる...なんてオチは夢でも笑えないんだが。
「えーっと...」
「正直に答えていいんだぞ。」
信じるべきか。少なくとも父親は誠実な人だ。それはこの4年間で見てきた。
「乗ってみたい、です。」
「...そうか。明日、そっちの知り合いを当たってみよう。」
「え!」
「っ!?あなた何考えてるの!?」
「ちっ違うルージュ、落ち着いてくれ!」
突如激昂する母親。
これ、選択肢をミスったというやつでは...?
「競技用のセイバーの方に詳しい知り合いが軍にいるんだよ。まさか4歳の息子を軍に関わらせるわけないだろう!?」
その言葉を聞いて安堵の顔を浮かべるルージュ。
そりゃそうか。日本には徴兵等が無かったためかいまいちピンと来てなかったが、4歳の息子を軍隊に行かせるなんて親としては酷すぎる話だ。
それにしても競技用のセイバー、そんなものがあるのか。
正直軍にはあまり興味無かったが、この世界に転生してあのロボットに乗れないというのはあんまりだ。
競技用がどんなものか分からないが、是非とも乗ってみたい。
「お父さん、お願い!」
「ああ、その代わりいつも通りいい子にしておけよ。それと、今日はしっかり寝ること。」
「はい!」
仮にも元スポーツマンだ、競技の道を進むのも悪くない。そう思うと明日が楽しみになってきた。
待っててくれ、俺のユニ〇ーン!




