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プロローグ──幾億光年のさらにその先

ピーンポーン───


「お届けものでーす」


「はーい」


「...お願いします。」


────────


「───ハァ!?っそがまじで、脳みそ着いてんのかよこのランサー使い!!」


DEFEAT、赤く光る画面に映る白い文字。

それは敗北を意味する。


「これで4連敗...せっかくの休みなのに、まじで時間を無駄にしてる気分...ハァ」


誰もいない部屋で誰にも届かない嘆きをボヤく。


高橋帆斗(たかはしはんと)。高校三年生。

勉強はいいとこ中の下。

運動は小学2年生から中学生までサッカーを続けていたが怪我で引退。その経験もあってか勉強よりは多少得意だと自負している。


さっきまでやっていたpcゲームを落とし、ふと本棚に目をやる。


「英検、再来週だったな...」


試験を控える準2級の参考書。一度も開かれた形跡はない。


「...進路どうしよ。」


土曜日とは思えないほど憂鬱そうな顔で、また誰にも届かない言葉を壁に投げる。


「はんとーーー?なんか届いたよー?」


1つ下の階から母親の声がする。そういえば新しいコントローラーを買っていたんだったな。多分それだ。

先程負けたショックをひきずりながら、階段を降りる。


ガクッ


「っは?」


1段目を降りたその時だった、足の力が急に抜けた。

力の入っていない右足のみで仮にも元スポーツマンの重い躯を支えることはできない。


───あっこれやばい


刹那に思い浮かんだ感想は、言葉にすらならなかった。



───ドサッ、ゴッ。






「〜〜〜!!」

「〜〜〜〜〜!!」


煩い。階段から落ちたくらいでそんな騒がなくてもいいだろ。相変わらず心配症な母親だな。俺だってもうすぐ18だぞ。あと少しで選挙権を持つ息子に対する反応か?


「〜〜〜?」

「〜〜!〜〜〜!」


まだ頭がぼーっとしてうまく聞き取れない。というか、気を失ってたのか?確かに強く頭を打ったような気もする。自分のことながら情けない話だな。前言撤回。そりゃ家族なら心配する。母親の優しさに申し訳ないな。


「〜〜!〜〜?」


わかった、わかったもう意識あるよ。だからそんなに慌てないでくれ母さん。


「〜〜〜〜!」


「あーーー。うあ。」


...えっ?

俺今なんて?「もう起きてるよ」って言ったはずなんだけど?


「あーーー。あーーーうあ。」


呂律が回らない。というか体に全く力が入らない。思考は回るがどうもモヤがかかったような感覚がある。


心臓の奥がヒュッとした。


まさか、植物状態?嘘だろ?


俺は先程戦犯をかましたばかりの右足に力を入れる。中学時代、何万回とボールを蹴った足だ。鍛え方が違う。

...動かない。そんな。


左足も。全く動かせる気配は無い。


頭を抱える。本当に信じ難いが、そうとしか思えない。俺は植物状態なってしまっ...



頭を抱える?

違和感に気づいた。手は動いてるじゃないか。動転していた脳がスーッと落ち着く感覚がした。

落ち着け、俺。まだ大丈夫だ。

───ゆっくりと目を開ける。


「〜〜〜!!!」


目の前には、透き通った緑の髪に碧眼の女性と、白髪に白い眼の男性。...アルビノって言うんだっけか?


誰?


ふと、さっきまで自分の頭を抱えていた手のひらが視界に映る。

小さい、小さい手。春休みに親戚と会った時に見た覚えがある。産まれたばかりの、何も掴むことの出来ないか弱い手。


これは、まさか。


その手を強く握りしめ、開く。何度瞬きをしても変わらない。今度こそ、結論付けていいだろう。




───転生だ。

最近友達に勧められたアニメで観た。トラックに跳ねられ生を終え、目が覚めた時には赤ん坊になっている。今の俺と全く同じ状況じゃないか。

思考がパズルのようにまとまってきたぞ、と思った刹那、ふわりと体が宙に浮いた。階段から落ちた時のあの感覚と酷似している。一瞬慌てふためく。


しかしすぐに自分の体が抱き上げられているのだということに気づいた。抱っこされるのなんて何年ぶりだ?少なくとも直近の記憶には全くない。

こんな感覚だったんだなと感傷に浸る。


...あれ?俺死んだ?


感傷に浸っている場合では全くなかった。ここはどこだ?本当に異世界転生なのか?そんなファンタジーじみたことが有り得るのか?100歩譲って生まれ変わったのだとしても、なぜ記憶を持ったまま?というか本当に死んだのか?夢では無いのか?


また思考がまとまらなくなってきた。頭のパズルを赤ん坊に踏み荒らされたように。


というか抱き抱えてどこに行こうとしているんだ?

この...恐らく母親であろう人物は。


ヒュォォォォォ...


涼しい。心地いい風が吹いている。

少なくとも、俺の居た日本の6月の気候ではない。ジメジメとして蒸し暑い感じは全く無く、例えるなら10月の秋と冬の間のような気候だ。

外に、出たのか。肌の感覚で理解した。

何となく頭も冷えたような気がした。


満天の星空だ。おそらく夜なのだろう。

星空。満天の。


...デカくね?


日本で見る星空とは全く異なる。遠くの星は確かに日本と同じあの感じなのだが、そんなものは霞むほどの、大きな星。それが幾つも。

望遠鏡で見る月がそのまま降ってきたような感じだ。




冷えた頭で今、理解した。

少なくとも絶対に地球ではない、どこか遠くの星に転生してしまったのだと。

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