脇役主人公の驚愕
ローウェンは語った。
「俺はあの家が嫌いだった。父上も母上も嫌いだった。才能や見た目だけで全然中身なんて見ない、馬鹿馬鹿しい家が…大嫌いだった。長兄だからと言って俺に媚を売る兄弟も大嫌いだったから、12人もいる嫌いな人間の名前なんて覚える価値もないと思っていたんだ。」
もしかしたらこの人はとてつもない馬鹿なのかもしれない。開いた口が塞がらない、という間抜けな状態になっていた私はなんとか閉口する。そんな私に変わらず真剣な目を向けてローウェンは続けた。
「でもそんな中で、兄弟の一人が漏らしたんだ、”出来損ない”の話を」
「……私のこと、ですか?」
「そう。その子の話を聞いて、唯一の正妻の子だって聞いて、俺はその子ならこの腐った伯爵家の中でまともな思考で俺と話ができるんじゃないかって思ったんだ」
「随分と…実家に対して辛辣ですね…」
「そうだろう?君もそう思わなかったか?父上も、母上も、妹も弟も、使用人たちでさえ才能や見た目に固執する馬鹿しかいない。そんな環境は腐っている、としか言えないだろう?」
はぁ、と驚いてまじまじとその美しい瞳を見つめた。まさか、私とは全く違う境遇で、同じことを考えてる人間がいるとは、思ってもみなかった。
その沈黙を肯定と受け取ったのかローウェンは女なら、いや男でさえも思わず見とれるような笑顔で言った。
「やっぱり君は、俺のただ一人の妹だ。」
「それはまぁ、そう、ですけど……?」
しかし私はその笑みに何か裏があるように思えてならなかった。
「……何を」
「サレン、俺に引き取られてくれないか」
企んでるんですか、と続けようとした私を遮って、彼はよくわからない提案をしてきた。
「引き取る、って……」
「俺は色々と王につてがあってね、個人として子爵位を賜ってるんだ」
「個人で、子爵、ですか……?」
それは知らなかった、と素直に飲み込む。今まで誰もそんなこと言っていなかった。ローウェンは継承権を放棄したとはいえ伯爵家の人間であるとこの城のほとんどはそう思っていたはずだ。
それに、この若さで個人で子爵位を賜るなど、いったいどんなことをしたんだろうと目が回るような気さえした。
「ああそうだ、…伯爵家とはすでに完全に縁を切ってる」
「そうだったんですか」
「で、ね。今俺はローウェン・レイカン改めローウェン・オルデア子爵なわけなんだけど、その妹として、ぜひサレン、君を引き取りたいと思う」
「私を、妹として……?」
「……ああ。今の君は平民なわけだが、すこし上の人間になれば君が伯爵家の人間だってことぐらい知っているはずだ。俺が引き取っても問題ない、というか引き取るべきだと判断するだろう」
「はぁ……?」
「はは、イマイチよくわかってないって顔だね」
いや普通に全然わかってないです。
いやまぁ、言っていることは分かるんだけど、
「どうして今更、私を…?」
「実は俺が君がサレンティアだって気づいたのは家を出た後なんだ。たった一人の妹をあの地獄から救ってやろうと思ったわけなんだけど、その時初めて君の顔を見たんだ。
……それが、今まで他の妹と大差ない奴だと思っていて避けていた、サレアだった。しかも伯爵家を自分で出て、平民として城仕えのメイドやってるんだからびっくりだよね」
「……」
思っていたよりこの人は、やっぱり馬鹿でお気楽な人なのかもしれない。
「で、どうするの?俺の妹になる気は?」
答えは既に決まっていた。
「全力でお断りさせていただきます」




